天地人

▼秘湯の情緒

今年の夏、米沢の「秘湯」をいくつか訪ねてみた。
常々「米沢八湯」なんて言ってるくせに、自分で行ってみて
体験したことがなけりゃ話にならん、という自己反省もあって。
いやあ〜、改めて行ってみるといいなあ〜。
まさに「山懐に抱かれた」という形容がピッタリ。
清流も清々しいし、露天風呂も野趣満点。
あまり良くて、ついに泊まってみた。
夕食時には、東京から来たという見ず知らずのお客さんと
大いに飲み、大いに盛り上がった。
ロケーションも気分も大解放!
かなり痛飲したのだが、川音を子守唄にしながら爆睡。
水と空気がいいせいか、翌朝はスッキリ。
朝風呂もまた爽快。
朝ゴハンおかわりっ!
やっぱ、行って楽しんでみるもんよ。
せっかく近くにこんな「お宝」があるんだから。

File No.253 No.254
『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』上・下
佐野 眞一(集英社文庫 各743円)
オススメ度★★★☆☆

佐野眞一は前から好きで、ほとんどの著作を読んでいるが、
唯一、この本だけはまだ読んでいなかった。
それは、約三年前に単行本として出版されたのだが、まだ
文庫になっていなかったから。
単行本も時々買うんだけど、いろんなところに持ち運びして
読むのには少々不便だし、せっかく買ったのに数年後に廉価な
文庫版になると、なんだか損したような気分になって…。
オレだけかなあ〜、こんなケチくさいことを考えるのは。
そんな折、仲間内から「会長」と呼ばれている某氏が数冊貸して
くれた本の中にコレがあった。
文庫になったんだ。
前にも書いたように、読みたかった本をたまさか偶然に人から
借りたり、もらったりすることほどウレシいことはない。
で、この「会長」氏、バリバリの体育会系で、およそ読書とは
縁遠いような感じだが、それがどっこい、なかなかの読書家だ。
それも、わりと男っぽく硬派なものを好まれるようだ。
人の読書傾向をアレコレ言うつもりはないが、ワリとオレとも
重なる部分があるようだ。
オレと決定的に違うのは、読み終わった本は即古本屋行きという点。
潔いというか、何というか…。
オレは一冊たりとも売らん。
飲み代欲しさのあまり、買った(買ってもらった)ばかりの
『折口信夫全集』を古本屋に売って後々かなり後悔したことが
トラウマのようになっていて…。
それは今もって買い戻せていないし、読むべき時期を永久に
逸してしまったような気もする。

で、この本―。
上下2分冊で、総頁数約1000頁にも及ぶ長編。
読み終えるのに1週間もかかってしまった。
でも中味は読み応え十分。
著者も書いているように、沖縄の戦後史を大文字ではなく、
小文字であらわしている。
つまり、大義名分や理屈、教科書的歴史ではなく、沖縄の
近現代における怪人物・怪事件・怪事象を丹念に追いながら
日常史・民衆史を綴る、さながらパッチワークのような趣きがある。

まずは沖縄のヤクザの世界にはドギモを抜かれる。
空手をベースにしたストリートファイターが超武闘派のヤクザ集団を
形成し、血で血を洗うような凄惨な抗争を何次にもわたって繰り広げて
いく様は、さながら日本版「ゴッドファーザー」のような観がある。
そう言えば、イタリア・マフィアの発祥もシチリア島という島じゃ
なかったっけ。

そして、沖縄に今も残る相互扶助的庶民金融システム「模合」(もあい)。
この「模合」があるため、沖縄にはあまり都市銀行が進出しなかった
とも言われている。
共同体の相互助け合いの「ユイマール精神」の名残でもある。
はたまた、80ものインディーズレーベルがあるという沖縄音楽の
盛んさにも目を見張る。
そしてその土壌は沖縄アクターズスクールにつながり、安室奈美恵や
SPEED、MAX、黒木メイサなどを次々に生んできた。
さらに、琉球処分で首里城を退去する尚氏の悲劇は、さながら
「ラストエンペラー」のようでもある。
沖縄戦の時に、王家尚氏の財宝を米兵が略奪していった話も憤り
を感じる。それらが未だ散逸していることや、残ってる財宝の扱われ
方も哀しい。
最後の驚きは、今回増補なった分で触れられている「尖閣列島」。
中台との国境問題のホットポイントである。
この尖閣列島はなんと個人所有の島なのだ。
それを国が借りているらしい。

唯一の国土決戦の地となり、「鉄の暴風」とも呼ばれる激しい戦闘で
筆舌に尽くしがたい悲惨・凄惨が繰り広げられたオキナワ。
今もって県土の20%が「軍事基地」で占められているという異様な
状況にあり、住民は米兵の横暴や戦闘機離発着の恐怖におびえ、
基地移転問題に揺れている。
一見平和な本土に住むわれわれは、この沖縄の来し方と現状を
上目線ではなく、謙虚に直視しなければならない、ということを
この本は教えてくれる。

2011.08.28:ycci

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