天地人

▼池井戸潤≠烽、一丁

津軽三味線聞いていたらなんだか泣けてきた。
「ねぶた祭り」の映像を見ていたらまた泣けてきた。
なんでなんだ?
祭りで我を忘れてしまう「血」が今頃になって…?
年とって涙腺弱くなった…?
いやいや、そればかりじゃない。
今回の大震災のことで知らず知らずオレもグッときてたのだろう。
それが、津軽三味線の情念のような音色を聞き、ねぶた祭りの
熱に浮かされたような躍動を見て、
「人間の営みってそんなにヤワなもんじゃないぞ」
という想いが沸々とわき上がってきたのかも知れない。
そう、人間の魂の営みって素晴らしく、力強いもんなんだ!

File No.244
『鉄の骨』池井戸 潤(講談社 1800円)
オススメ度★★★★☆

ついこの間「池井戸潤三連発」をやったばかりだけど、
もうひとつの代表作である『鉄の骨』を読まないと片手落ち
のような感じがして、先日図書館から借りてきた。

一言で内容を言うなら「官製談合」の話。
「官製談合」ってよく新聞やテレビで耳にするけど、どういうこと?
という向きには格好の小説でもある。

主人公の富島平太は中堅ゼネコン一松組に入社して3年の若手社員。
建設現場の監督見習いをしていたのだが、ある日人事異動で本社
業務課へ。
この業務課というのが、別名「談合課」と言われる部署だった。
2000億円近い地下鉄工事の落札・受注を巡って、いろんな
人間の暗躍や駆け引きが始まる。
現実もこれとそうは遠くないだろうなあと思わせるほどリアル。
出てくる人間がちょっぴりキレイすぎるきらいはあるが、
まあ許容範囲。
平太の大学時代からの彼女である萌は、都市銀行である白水銀行の
為替係に勤めている。
お互いが違う世界でそれぞれ一人前になろうと必死になっている頃、
二人は微妙にすれ違ってくる。
自分の仕事のために顧客情報を教えてくれと迫る平太に、萌は
頑なに断るばかりか建設業界の旧弊をこっぴどく非難し、それに
染まっていく平太をも侮蔑する。
萌の心はだんだん同僚のエリート銀行員の方へ…。
酸いも辛いもわからず自分のことしか考えていない若い女性が、
意に沿わないながらも泥にまみれて必死に生きて行こうとする
男に何を言うか!と憤りを感じてしまう。
まあ、読者にそんな感情を抱かせるのも作者のワザなのだが。
でも萌は、最終的には賢くていい女だった。
それは読んでのお楽しみ。

さて、話の本筋である地下鉄工事にかかわる官製談合はどうなるか。
最後の最後に大ドンデン返しが待っている。
「えっ、そういうことだったの」
という感じと、
「本当の主人公は平太じゃなく、○○じゃないの」
ってな感じだったなあ。

談合はいけないこと。
でも、「必要悪」と言う人もいる。
悪いことだけど一人の力では変えられない、とも。
そういう言い訳をすることがすでにおかしい、とも。

そういう社会問題を、平太と萌というまだピュアな精神を持った
若手社員の目と行動を通じて考えさせてくれる好著である。



2011.07.06:ycci

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