天地人

▼“池井戸潤”三連発・その2

悪い夢をみて目が覚めた。
連日の飲酒がたたってか、このところ早朝に一度目が覚めてしまう。
今朝も4時頃一度起きて、パラパラと本を読んでいたら、いつの間にか
二度寝に突入…。
場所は何かの試験会場。
試験問題が配られる。
なんと、数十頁もの新聞全部が膨大な試験問題になっている。
うえっ!
とにかくやらねばと、とりかかるオレ。
すると、隣にいた顔見知りのKさんがオレにカンペを差し出してきた。
これホントに正解なのか?と疑いつつ確認するオレ。
時間をかけて計算問題の検算をしたら正解。
よお〜し、とカンペから書き写し始めたら試験終了のブザー。
ええっ!
「ちょっと待ってよお」
ブザーは鳴りやまない……
「待ってじゃない。早く起きて!朝から大汗かいてどうすんのっ」
ん?家人の声?夢か?ブザーは目覚まし時計?…
「うっせーよ、オレいま試験問題解いてんだっ」
「ふへっ?アンタだいじょうぶ?」
見事な五月晴れの中を、ノーテンキ・スッテンコロリンで今日も
出社したオレでした。
(注:あくまで夢の話)

File No.233
『かばん屋の相続』池井戸 潤(文春文庫 581円)
オススメ度★★★★☆

“池井戸潤”3連発の2回目。
先日とは別の本屋さんに行ったら、新聞書評で取り上げられた
最新刊の文庫が1冊だけあったので、さっそく買ってきた。
これは、6つの短編を収録している。
すべての作品の主人公は例外なく銀行員。
そして、登場するのが中小企業、というのが特徴。
オレにとって大企業の話は面白くても、いまいち現実味が薄い感じが
するが、これだったらかなりリアルである。
そして、作品ごとの出来不出来は多少あるものの、一編一編がなかなか
味わい深い。

表題作の『かばん屋の相続』は、技術と品質に定評のあるかばん屋の
社長が亡くなって、事業後継を巡る話。
社長だった父と折り合いが悪く、家を出てエリート銀行員になった
長男が舞い戻り、事業を継いでいた次男を追い出し、自ら事業経営を
行なう。それは、父の遺言でもあったのだが、なぜ?
その結末と亡父の遺志が読みどころになっている秀作だ。

『十年目のクリスマス』や『芥のごとく』も少し切なくていい話だ。
読み手に共感を与えるのは、わが身をはって、命を賭して事業経営
している中小企業の経営者に著者の熱い眼差しが注がれているから。
そういう経営者に銀行が、そして銀行員がどのように手を差し伸べ
ともに歩んで行こうとするのか。銀行と言うシステムの限界と
熱い心の銀行員の葛藤とジレンマ、喜び、切なさなどが、
全作品の基調となっている。
これは、著者自身が銀行員時代に常に抱いていた自分自身のテーマ
でもあったのだろう。
「オレに何ができるのだろう」と常に自問し続けていたのではない
だろうか。
基本的には冷静でいながらも、ほとばしるような熱い感情移入や
他者の痛みや悲しみ切なさなどをわが身のごとく思える優しさが
ないと、仕事に感動なんて生まれようハズがない、という
著者のメッセージがジンジン伝わってくるようだ。

そして、この著者はなかなかストーリー構成がうまい。
さながら浅田次郎の経済小説版といったところか。
最初は三つ★ぐらいかなあと思っていたのだが、なんのなんの、
この味わい深さに四つ★太鼓判、ポン!
2011.05.18:ycci

HOME

(C)

powered by samidare