天地人

▼食べる力

所用で山形に行った折、お昼に某外食チェーン店に入った。
メニューを開き、ラーメンよりはるかに安いパスタの値段を
見てビックリ。当然オーダーはソレ。
これまた信じられないスピードで出てきたパスタを、得意の
早食いで平らげ、ナプキンで口を拭って昼食終了、それまでの
所要時間18分。さしたる会話もなし。
連れはかなり怪訝そうだったが、オレはこのスピードに満足。
そりゃ、ウマいものは食べたいけど、根は何でもいい雑食性の
タチ。好き嫌いもあまりない。
沢木耕太郎の言う「旅する力」には「食べる力」も含まれて
いる。
その意味だけにおいては、オレは間違いなく合格だろう。
でも、食べる量は最盛時の半分から3分の1ぐらいに激減。
えっー、それで!?
とよく言われるがホントのこと。
だから今の立派な?カラダがある。

File No.215
『きことわ』朝吹真理子(文芸春秋2011年3月号 860円)
オススメ度★☆☆☆☆

先日、平成22年度下半期(第144回)の芥川賞受賞が発表された。
受賞作は2つ。
朝吹真理子の『きことわ』と、西村賢太の『苦役列車』。
両受賞作の全文が掲載されている『文芸春秋3月号』を買って
さっそく読んでみた。
まず『きことわ』から。
ん〜、正直言って何度読むのを止めようかと思ったかわからない。
「だからナニ?」と幾度も心の中でつぶやき続けていた。
主人公の永遠子(とわこ)15歳と貴子(きこ)8歳が逗子の
別荘で過ごした夏の思い出からはじまり、25年後に再会する
というストーリー。
主題は、選者の村上龍の言葉を借りると、
「失われた時間は取り戻せないが、それはそれで美しいし、
現在とつながっている」ということらしい。
確かに、過去の記憶とか、時間の流れなどを描写するセンスには
キラリとしたものを感じる。
オレが読むのを止めようと思ったワケは、
まず、ストーリーが退屈。時の流れの描写も、そういう感性に
ピタっとはまる人でないとちょっと…。
そして、文章が少しヘンだなあと感じるところが随所にある。
オレだけそう感じるのかも知れないが。
さらに、あってもなくてもいいようなウンチクが少しハナにつく。
会話で「デボン紀の…」とか、「マリアナ海溝の…」とか言われたら、
無学なオレは「はいはい、わかったから」と思わず言っちまうだろう。
そして、なんで、「およそ350,000,000ねんまえ」と
ここだけ横書きで書くのよ。
これも、時間描写の趣向のひとつなのかな。

それにしても、今回は選者の多くがこの作品を好評価している。
石原慎太郎と村上龍は別として。
もっとも石原慎太郎はいつも激辛口の選評で有名。
それはそれで読者としては面白い。
選者たちは好評価の理由をあれやこれやと尤もらしく述べているが、
オレにはいまいちよくわからない。
なんだか文学のためのブンガクを小難しそうに論じているだけで、
読者のための文学になっていないのでは、と思うのだが。
まあ、今に始まったことじゃないけど。


File No.216
『苦役列車』西村賢太(文芸春秋2011年3月号 860円)
オススメ度★★☆☆☆

今回の芥川賞受賞2作品は、その著者の経歴も含めてすごく対照的
で面白い。
もしかして、意図的にそうしたのでは、と勘繰ってしまうほど。

『きことわ』は、逗子の別荘という富裕層の中のセッティング。
著者も私大大学院在学中で、華麗なるブンガク家の系譜に生まれている。
一方、『苦役列車』は、中卒の荷役日雇い労働者が主人公。
著者自身も社会の低層を這いずってきているらしい。

オレとしては、『苦役列車』の方にシンパシィを少し感じるなあ。
知的でハイクラスなお嬢様より、薄汚れた貧乏でモテない男の方が
オレに合っているからかも。
さらに、『苦役列車』では、低学歴・低所得・低容姿(こんな言葉
ないけど)ゆえのあきらめや嫉妬心、そして根拠なき高い自尊心など
が赤裸々にえんえんと続いている。
おそらく、著者自身の体験からくるものもあるんだろう。
この主題も村上龍の評を借りると、
「人生は不合理で不公正で不条理だが、それでも人は生きていかな
ければならない」となる。
不合理・不公正・不条理は山ほど出てくる。
それから生じる主人公の人格の歪みもよく描かれている。
しかし、「それでも生きていかなければならない」があまり感じ
られない。
ここでも、「だからナニ?」と思ってしまう。
「だからナニ」は読者それぞれが考えることだろうが、考えさせ方
が一番大事なんじゃないかなあ…。


2011.02.20:ycci

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