天地人

▼Yの危機

このところ、女性の力強さや社会での台頭を改めて
つくづくと感じさせられる。
この秋、仕事上で、小中学生の絵画・作文コンクールの3つ
ほどに関係する機会があった。
それらのコンクールの(上位)入賞者は圧倒的に女子が多かった。
中には、絵画・作文の上位入賞者数名がすべて女子という
コンクールもあった。
並み居る大人たちを前にした発表も実に堂々たるもの。
ことほど左様に、女性が男性をリードしているような場面が
いろんなところで、ごくフツーに見られるようになってきた。
職場の管理職をはじめ、企業経営者や首長、国会議員、大臣、
はては国家元首に至るまで、女性の台頭は目覚しい。
これはこれでたいへん結構なことだと思う。
が、しかし…。
女性の力強さや台頭と相対的に男性が衰弱しているのでは
ないかと、少々気になる。
「人間の基本仕様は女性。男性であることを決定付ける
たったひとつのY染色体はメッセンジャーである以外の
重要な使命を持たず、しかもキズを修復出来ずに複写を
繰り返し、もはやボロボロ…」といった『できそこないの
男たち』(福岡伸一)のフレーズがよみがえる。
Yの危機、なのか?

File No.190
『渋沢栄一 日本を創った実業人』
東京商工会議所編(講談社+α文庫 819円)
オススメ度★★★☆☆

某氏の机に置かれていたこの本が気になって、お願いして
借りてきて読んでみた。
ふむ〜、渋沢栄一は力強き「Y」だなあ。
渋沢に限らず、幕末から明治初期、いわゆる近代日本の
黎明期に活躍した人たちには、すべからく力強い「Y」を
感じる。
この本は、渋沢栄一の偉大なる足跡をたどりながら、商工
会議所の淵源と、日本産業界の近代化の道のりをエポック的に
まとめている。
たぶん、一般の人たちが読むと、少々カタかったり、タイクツ
に感じたりするかもしれない。
でも、この本に記載されている業界に関係する場の片隅に
棲息している身としては、一応ルーツは知っておきたい。
オレたちが受け継いでいるDNAとは何か、ということを。
はじめに、東京商法会議所(東京商工会議所の前身)発足の
動機となったものは何か。
そのひとつは、殖産興業。
ふたつめは、商工業者の世論形成。幕末に欧米列強と結んだ
不平等条約改正のため、国内世論の形成が不可欠だった。
国内どこの商工会議所も、商工業者の健全なる発展のために、
新たな社会システムづくりや規制緩和(撤廃)、社会インフラ
整備などの「要望・陳情」を事業活動の柱の一つに掲げて
いる。
それらは、商工会議所設立当初から受け継がれてきたDNA
なのだ。
この本では、日本の近代化への道におけるエポックになった
事象をいくつか取り上げている。
「横浜生糸貿易紛争」や「実業団の渡米」、「明治神宮奉建
運動」などがそれ。
なかでも、明治42年の8月から3カ月に亘った実業団の
渡米記録は、今読んでみてもなかなか興味深い。
渋沢栄一を団長とする一行は、全米53都市を精力的に
巡るわけだが、その移動手段はなんと、特別仕立ての寝台列車。
つまり、寝ている間に移動し、朝、寝台列車から降りて、
その都市の工場視察、午餐会、晩餐会、夜会などに参加し、
深夜に列車に帰ってきて、また次の都市へ、という、
今では到底考えられないような強行軍だったようだ。
それにも増して感心させられたのは、ホスト側のボスである
太平洋沿岸連合商業会議所のローマン会頭が、3カ月の
行程に最初から最後まで同行したということ。
これはすごいことだよなあ〜。
マネして出来ることではない。
さらには、ローマン夫人は同じ列車に乗せず、通常の便を
乗り継いで追いかけさせ、途中からはお客様にそれを気遣わ
せないように実家に帰したとか。
レディファーストの国でありながら、サムライのような心を
持って接待を尽くしたことがうかがわれる。

全編を通じて、渋沢栄一個人というよりは、渋沢や東京商法
会議所などを中心にした日本産業界近代史のような趣だ。
最終章に渋沢栄一個人に焦点を絞った記載があるが、その
全人格的魅力に言及しているとは言い難い。
渋沢栄一の人間くさい魅力を知りたい向きには、別の本が
良いかも知れない。




2010.11.14:ycci

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