天地人

▼事実は小説よりも

今日は田植え日和。
長らく低温の日々が続いて、今年はどうなることやら、
と思っていたが、このところ春本来の陽気が戻ってきたようだ。
で、さっそくビーグル・ブルーUに乗って飛び出した。
どこもかしこも、田植えの人がおおわらわ。
農家の人たちの苦労を見るにつけ、豊作を願わずにはいられない。
もっとも、豊作過ぎても考えものらしいが…。
市場経済はなかなか難しい。

File No.146
『黒い看護婦』森 功(新潮文庫 438円)
オススメ度★★★☆☆

これも古本屋さんでまとめ買いしてきた本の一冊。
憶えているだろうか。
平成14年に世の中をあっと言わせた、福岡の女性4人組による
保険金連続殺人事件。
女性だけ4人、しかも「聖職」とも言うべき看護婦が起こした
残忍極まるあの事件を追ったドキュメンタリーである。
いやはや驚きを通り越して、戦慄をおぼえ、「ほんとかよ」って
何度思ったことか。
よく、「事実は小説より奇なり」と言うが、
事実は小説より圧倒的にリアルであり、且つ恐ろしい、とつくづく
思わせられた。
主犯格の吉田純子が、その飽くなき金銭欲と虚栄心を満たすため、
次から次と詐欺・だまし、そして殺人に手を染めていく。
他の3人は共犯でありながら、吉田純子の詐欺の被害者でもある。
だましの手口はそれほど巧妙ではない。
時には、余りにも幼稚過ぎてあきれてしまうぐらい。
なぜ、こんな稚拙な手口にいとも簡単にひっかかってしまうのだろうか。
きっと、冷静な判断を下せる心理状態ではなかったのだろうが…。
とくに、第4章「最初の殺人」で、仲間の一人である和子の夫を
殺害するシーンは、皮膚が粟立つほど迫真で、言い知れぬ恐怖を
感じた。
小説の殺人シーンなんかメじゃない迫力。
そりゃそうだ、ほぼ事実のことなんだから。

こういう本を読むと、非行や犯罪の抑止力って何だろうって
考えてしまう。
さっきもある会合の飲み会で、ある人とこれに似たような話に
なって、基本的な思いが一致して、思わず握手したくなった。
人を非行や犯罪、自死に追いやらないようにする最大の抑止力は、
多くの人たちとの親密な関係性を持つことにある、と思う。
多くの人が自分を気にかけてくれてる、自分に愛情を注いでくれる、
自分を心配してくれてる、自分は多くの人たちの愛情のおかげで
生きてこれて、これからもそういう関係の中で共に生きていく…
という自覚。
でも、そうなるためには、自分も多くの人に愛を注がなくては
ならない。
愛し愛されながら人と人との関係性を築き、それが小さな怒りや
憎悪を乗り越える。そうしながら、人間は精神とかモラールの
バランスをとっていく(つまりオトナになっていく)のだと
オレは思うのだが…。
とまあ、エラそうなこと言ってるわりには、オレもオトナに
なり切れていないなあ、と反省することしきり…。

本題にもどって。
著者は、この事件を総括的にこのような言葉で締めくくっている。
「ありふれた中年女性による猟奇的な犯行。それこそが、看護婦
4人組の連続保険金殺人の特徴であり、それゆえ捉えどころのない
奇妙な感触が残る」と。
最後に裁判所の公判で、死刑を宣告された直後の吉田純子の口元に
笑みが浮かんでいるのを著者は見逃さなかった。
何とも奇妙で、背筋が寒くなるような余韻でもある。


2010.05.22:ycci

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