天地人
▼安定感のある作品
先ごろ、第142回直木賞の受賞発表があった。
佐々木譲の『廃墟に乞う』と、白石一文の『ほかならぬ人へ』。
なんと、二人の作家とも、今まで読んだことがない、たぶん…。
ぶっくぶくも、まだまだやのう。
File No.126
『廃墟に乞う』佐々木 譲(オール読物2010年3月号 960円)
オススメ度★★☆☆☆
『オール読物』(文芸春秋)の3月号は、直木賞受賞2作品が
全文掲載されているのでおトク、と思ってすぐ買ってきた。
佐々木譲はとくに警官シリーズの小説で有名な作家だが、
冒頭書いたように、これまで読む機会がなかった。
少しワクワクしながら読み始めたが、そんなに奇想天外・
荒唐無稽なところはなく、きわめて堅実な作品であるとの
印象を受けた。
表題作の主人公・仙道孝司は、PTSDで休職中の北海道警の刑事。
静養逗留中に、以前の上司だった男から、千葉で事件発生の
連絡を受ける。
それは、二人にとって、13年前の娼婦殺人事件を彷彿と
させた。彷彿とさせただけでなく、いともたやすく一人の
殺人犯が浮かび上がり、一線上に連なっていく。
こうしたところも、他の作家・作品なら、かなり思わせぶりに
頁を割くところなのだが、短編でもあるせいか、かなり
アッサリしている。
最後の部分もアッサリで終ってしまっている。
ところどころに、「なぜ?」と思わせる小さなナゾがちりばめ
られているが、著者はそのナゾ説きをしない、というか
まるで眼中にないかのようだ。
つまり、この小説は、意外な展開やトリック、ドンデン返し、
スリルなどを楽しませるのではなく、かつて炭鉱の町として
栄えた名残をとどめる廃墟、寂れた通り、犯人の家庭環境・境遇
などを、全体を通じたトーンとして感じさせる小説なのだ。
華々しさはないが、とてもシュールで、安定感がある作品だ。
文章もきわめて読みやすい。
集中して読まないと理解できないような文章は、はなから
エンターテイメント失格なのかもしれない。
その点、この作品は言うことなし、直木賞受賞も納得。
しかし、明朝には忘れてしまっているかも…。
2010.03.07:ycci
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