天地人

▼病める大国アメリカ

昨年確か、この第1作『ルポ貧困大国アメリカ』を読んで
紹介したハズ…?
内容は良く覚えているが、アップしたかどうか、あまり
記憶が定かでない。
今作はそのパートU。
バリエーションは少し狭まったものの、そのリアルな現状は
前作同様にセンセーショナルだ。

File No.124
『ルポ貧困大国アメリカU』堤 未果(岩波新書 720円)
オススメ度★★★☆☆

今作は、オバマ就任以降のアメリカをルポしたもの。
選挙キャンペーンの合言葉にもなった「チェンジ」は、本当に
実現したのだろうか?
残念ながら、それはかなり疑わしいようだ。
オセロのように、いきなり裏が表に変わるんだったら誰も苦労
しないだろうが。
でも、それにしても、アメリカの病根は深い。
いきなり第1章「公教育が借金地獄に変わる」で驚いた。
アメリカの大学生の多くが、学資ローンを組んで進学する。
卒業後に割賦返済していくわけだが、その金利が恐ろしく高い。
約10%の失業率では、卒業後もまともな就職口がなく、
借金はどんどん膨らんで、債権は転売を重ねられる。
その上、学資ローンは消費者保護法の適用を除外されており、
駆け込む先もない。
かくして学生は、未来の希望に胸膨らませるのではなく、
借金を膨らませて、大きなマイナスから社会人生活をスタート
させることとなる。
その学資ローンで飛躍的な成長を遂げたのがサリーメイ。
政府も学生の窮状を見かねて、政府直接のローンや奨学金を
設けるが、サリーメイによる多額な政治献金と、巧みな議会
ロビー活動によって、拡張を阻まれ骨抜きにされてしまう。
著者が最後に書いているように、
「(アメリカの病根は)キャピタリズム(資本主義)よりも、
むしろコーポラティズム(政府と企業の癒着主義)にある」
というのも、おおいにうなずける。
一昨年、サブプライムローンの問題が一挙に噴出し、世界
同時不況のトリガーになってしまったような観があるが、
この不良債権化して、金融商品に組み込まれていく学資ローン
は、第2の暴発の予感をさせる。
医療保険の問題も深刻だ。
オバマは、国民皆保険を公約に掲げたが、これも、保険会社等の
阻止・利益誘導活動によって、ねじまげられようとしている。
「国内には4200万人の飢餓人口と、4700万人の無保険者が
いる。1500万人が職にあぶれ、1000万人が家を差し押さえ
られそうになっている。財界へ流れた分と戦争のしわ寄せを受けて
拡大する国内の貧困と失業者こそが、大量破壊兵器ではないか」
という下院議員の糾弾は、まさに大国アメリカの悲鳴に近い。
しかし、前にも触れたように、アメリカは建国の理念に立ち返る
基本的な素質を持っており、自らチェンジを起こすポテンシャル
を秘めている。
きっと、それがアメリカを救っていくだろう、と願いたい。

さて、この本は、偉い学者さんが机上で書いたものとは違い、
実際の国民に数多く取材して、問題を浮き彫りにしているので、
読んでいて面白い。
前作同様におススメの好著である。

2010.03.07:ycci

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