天地人
▼素晴らしきMERRY
デザインって大事だよなあ。
前から感じていたけど、最近はとくに思う。
表面的なものでも、何だかカッコイイという
雰囲気的なものでもなくて、ちゃんと「思い」が
「カタチ」になっているものって、オレたちの周りには
実は、そんなに多くはないんじゃあないかって…。
File No.115
『デザインが奇跡を起こす』水谷孝次(PHP研究所 1400円)
オススメ度★★☆☆☆
つい最近出版された本で、前回、知人が「次に読む本」って
言ってたもの。
オレだって、ちゃんといち早く買ってはいるのよ。
ただ、読むのが追いつかないだけで。
オレの部屋には、買ったはいいけど、まだ読んでない本が
ぎょうさん積まれている。
いわゆる「積ん読」ってやつ?
そいつらが、夜な夜な「おいっ、いつ読んでくれんだよっ!」
ってオレをにらんでいるようで、ちょっとコワイ…。
まあ、ヨタ話はこれぐらいにして。
「水谷孝次」と聞いてピンと来る人は、デザインに関心が
高い部類に入る人じゃないかな。
そう、彼は国内外の数々のデザイン賞を受賞している、わが国を
代表するグラフィックデザイナーにしてアートディレクターの
一人。
モデルの甲田美也子が中国・北京の天安門広場にカメラを持って
立っている、ANAの「冬の中国キャンペーン」ポスター。
同じANAのニューヨーク線の開設に伴って、大御所フランク・
シナトラを起用したポスター。
いずれも、彼の代表作のひとつだ。
もっと彼を有名にしたのは、「愛知万博」で披露された、世界23
カ国、2万人以上の笑顔とメッセージ、いわゆるMERRY EXPOの
核をなすイベントのプロデューサーをつとめたこと。
そして、一昨年の北京オリンピック開会式で見た、世界中の
子どもたちの笑顔がプリントされた傘の花が開くイベント、
あれも水谷孝次のプロデュースだった。
それも1円の対価ももらわなかったらしい。
そのくだりは、この本に詳しく書かれている。
世界の人々に、幸せと平和に満ちた未来を伝える「MERRY PROJECT」
が彼のライフワークなのだ。
いろんなケースで、いろんな障害をブレイクスルーし、心からの
メッセージをカタチにして発信していく姿は、感動的ですらある。
でも、オレがもっとも興味を持ったのは、この本の前半部。
彼がデザイナーを志すに至った経緯、下積み生活、いろんな人から
薫陶を受け、世間から認められるデザイナーに成長していく過程は
たいへん興味深い。
当時(1970年代)を代表するグラフィックデザイナー田中一光
の事務所にもぐりこんだはいいが、ほどなくして彼はクビになる。
クビを宣告された時に、田中から受けた教えが、その後の水谷に
とって大きなカテとなる。
「とにかく、いいものをたくさん見なさい。いい人に会いなさい。
いい本を読みなさい。いいものを食べなさい。…
いいものを自分の中に取り込む…
そういう感性や、物を引いて見る力=デッサン力が、作品のクォリティ
を高める。そしてそれは、すべての仕事に通じることだ」と。
さすが田中一光。
そして、それをしっかり受け止めて実践していった水谷もさすが。
しかし…
後半のMERRY PROJECTは確かにスバラしいんだけど、オレには少し
クドイかなって…。
北京オリンピック開会式総監督チャン・イーモウとの心の通い合い
はすごく感動的だ。だから、それで充分MERRY PROJECTに生涯をかけた
「思い」は伝わっている、とオレは思うんだけど。
最後にもうひとつ。
デザイナー(物事の企画プロデュースということも含めて)を志す人、
そういう世界で発展途上にいると思う人は、ぜひ、この本を読むことを
おすすめする。
まあ、オレみたいに成長が右肩下がりになったような人(いちおう謙遜
のつもり)でも、遅くはない…、と思う、たぶん…。
2010.01.26:ycci
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