天地人

▼自意識を問う

去年秋のサブプライム、リーマン・ショックに続き、
今年はドバイ・ショックとやらで、世相はあんまり
明るいとは言えない。
リストラに踏み切る企業も多く、絶望感と無力感に
苛まれる日々を送っている人々…。
「自分の存在価値って?」と自問自答を繰り返すことは、
自意識を再確認すること…。

File No.98
『君たちに明日はない』垣根諒介(新潮文庫 590円)
オススメ度★★★☆☆

この垣根涼介って作家、近年ブレイクしているらしい。
恥ずかしながら、今回その作品を初めて読んだ。
これがなかなか面白い。
作者のプロフィールを見ると、この作品で山本周五郎賞、
過去には、サントリーミステリー大賞、大藪春彦賞、
吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞と、数々の
賞を受賞している。
だから買ったわけではないが、一般的な本選びの基準
として、受賞作品と言うのは、あまりハズレがないのも
事実。
まあ、選評のプロが評価してるんだから当たり前かも
しれないが…。
で、この作品は、リストラ請負会社の社員・村上真介を
主人公として5つのリストラケースが展開される。
もちろんフィクションの小説だが、いかにもありそうな
話で生々しい。
リストラって言うと、暗い雰囲気になりがちだが、この
小説はあまりジメジメしたところがない。
作者の筆力のなせるワザか。
主人公自身も過去にリストラされた身。
それぞれの修羅場を冷静に仕切っているが、そこはかとなく、
共感や憐憫を漂わせている。
社会に生きるものは、「人のために役立っている」「会社の
ために役立っている」という他からの評価がすべてみたいな
ところがある。
それを、相対的なハカリにかけられて、言ってみれば「不要」
の烙印を押されるわけだからキツイ。
自意識過剰な人間ほど、自分の存在価値を全否定されたような
絶望感に陥ってしまうだろう。
そういった人間模様を、重くなく描いている秀作でもある。
自分自身の評価と他人の眼は違うということも悲しい現実
である。
「私はこんなに有能なのに、こんなにがんばっているのに、
なぜ会社は見捨てるのか…」、まさに自意識瓦解の危機である。
エンターテインメント気分で読めるが、現実の巷で繰り広げ
られていそうなテーマなので、時には身につまされるかも
しれない。
唯一気に入らなかったのが、主人公がリストラ面接をした
相手とデキてしまうこと。こういうストーリーのバリエーション
が全体を暗さから救っているんだろうけど、いかにもありそう
すぎて、かえってオレ的には面白くなかった。

2009.12.19:ycci

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