天地人

▼不謹慎ながら

大河ドラマ「天地人」もいよいよ最終盤。
妻夫木クンの兼続役も板に付いてきたかんじ。
セリフも一発で覚え、NGがほとんどないらしいから、
俳優としての才能があるのかもしれない。
でも、きわめて不謹慎ながら、オレの心はすでに
「坂の上の雲」に傾きかけている…。

File No.87
『文芸春秋12月臨時増刊号』-『坂の上の雲』と司馬遼太郎-
(文芸春秋 1000円)
オススメ度★★☆☆☆

今まで読んだすべての本の中でベスト5をあげろ、と言われたら、
間違いなく『坂の上の雲』はランクインする。
司馬遼太郎が40歳代の殆どをこの本の調査と創作に費やしたという
だけあって、坂の上にぽっかりと浮かぶ雲のようになろうという
青雲の志をもって、明治の国家を象徴するような人生を駆け抜けた
3人の群像は、オレの胸をかつてないほど熱くさせた。
しかも、これは小説でありながら、ほとんどノンフィクションでもある。
それが今年末から3年かけてドラマになるというのだから、
今からワクワク、ドキドキしている。
この臨時増刊号は、放送に先立って出されたもので、各界著名人の
『坂の上の雲』に関するエッセイ寄稿や、歴史家の対談、登場人物の
末裔たちの随筆などで構成されている。
その中で真っ先に読んだのは、司馬遼太郎の講演録2編。
「薩摩人の日露戦争」と「『坂の上の雲』秘話」。
日露戦争でロシアのバルチック艦隊を撃破した秋山真之の戦法は、
外国仕込ではなく、実は瀬戸内海の水軍兵法書がヒントになった
などという話は、オレ的にはスゴく興味深い。
陸軍では、乃木希典率いる第三軍の屍累々たる苦戦の惨状に胸が痛み、
窮地を救った児玉源太郎の男気にも感動を覚える。
もし、秋山真之が正岡子規とともに文学の道に進んでいたら、
今ごろ日本はロシアの属国になっていたかもしれない、というくだりは、
ちょっとゾッとする。
それだけ天才的な戦術家だったのだろう。
もうひとつ。
少し前に書いた記憶のある広瀬武夫。
旅順口閉塞作戦で激烈な戦死を遂げた軍神。
その広瀬がロシア駐在中に想いを寄せられたアリアズナの写真が
本邦初公開で掲載されている。
さらにおどろくべきことは、広瀬の遺体を甲板に引き上げた写真も
載っていること。広瀬は、五体バラバラになって死んだのではなく、
敵のロシア軍に引き上げられ、尊厳をもって葬られたのである。
その頃は、日本人も武士道精神が色濃く残っていたが、ロシアの
方も騎士道精神が浸透していたのだろう。

これを読んでいる最中に、何気にテレビをつけていたのだが、
ナント偶然にも、ありし日の司馬遼太郎がNHK教育テレビに
映った!
司馬遼太郎の作品や講演録はいくつも読んできたが、テレビとは言え、
その動く顔と声を聞いたのは初めてだったので、しばし没頭して
見入ってしまった。
画面の中で司馬は、「日本人は日露戦争後、不思議の森に入って
しまった」と話し、国家・国民を不幸のどん底に落とした太平洋戦争
をきわめて痛烈に非難し、作家として出来ることを搾り出すように
語っていた。
そう、『坂の上の雲』も、決して日露戦争がどうしたというだけの
本ではないのだ!
ちなみに、『坂の上の雲』には、わが郷土の偉人山下源太郎も出て
くるんだよ。それもさらっとではなく、そこそこに2回ほど…。

でも、この本は長編で読むのタイヘン。オレは7、8年前に読んだが、
年末年始の休み1週間をまるまる費やした。
どこにも一歩も出かけずに、テレビも見ないで、電話も出ず…。
まあ、司馬が創作に費やした10年にくらべれば、何と言うことも
ないけどね…。

こんなにベタ褒めして★2つはなんでか?
それは、何百もの評論・随筆よりも、作品そのものがすべてだから。
もちろん『坂の上の雲』そのものは5つ★!
2009.10.30:ycci

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