天地人

▼「必読書」の大氾濫

本の広告見てると、「○○の人必読!」とか、「現代人の必読書!」
とか多いねえ。まさに「必読」の大氾濫。
そんなに必読、必読と言われても読めねえよお。
だいいち、ホントに必読なのかい?

File No.85
『アダム・スミス』-『道徳感情論』と『国富論』の世界-
堂目卓生(中公新書 880円)
オススメ度★★★★☆

もしかして、この本、経済分野で今年のオススメNo.1かも。
まあ、もっとも出版されたのは昨年3月のことだが…。
それもそのはず、各書評で激賞されるわ、サントリー学芸賞は
受賞するわで、一躍ベストセラーになった。
読むのが遅すぎたぐらいだ。
ちなみに、サントリー学芸賞を受賞した本に、あまりハズレはない、
と個人的には思っている。
ところで、アダム・スミスって?
18世紀のイギリスの人で、その著書『国富論』はつとに有名で、
近代経済学の父とも呼ばれている偉い人だ。
この本は、アダム・スミスが遺した『道徳感情論』と『国富論』を
読み解きながら、社会の秩序と繁栄とはどうあるべきか、という
ことを論じている。
一見ムズカシそうだが、文章も平明で、中味もわかりやすい。
余り良く知らなかったオレは、アダム・スミスとは「見えざる手」
に象徴される市場主義経済の主唱者だと単純に思っていた。
しかし、さにあらず。
「市場は本来、互恵の場であって、競争の場ではない」
「重商主義政策は、貨幣を富と錯覚することの上に築かれた政策
であり、…弱い人の経済政策である」
などなど、引用すればきりがないほど、すごく人間的な、熱い心を
もった言葉に溢れている。
不朽の名著たるゆえんであろう。
さらに、スミスは、経済発展の順序は、農業→製造業→外国貿易と
し、拙速な社会改革は民衆の反発を買うだけで成功しない、とも
喝破している。
現代にも通じる一般原理だ。
最もオレを感動させたくだりは、
「経済成長の真の目的は、最低水準の富すら持たない人々や世間から
無視される人々に仕事と所得を得させ、心の平静、すなわち幸せを
得させること」というもの。
この論の流れの終章は圧巻。
「人間が真の幸福を得るためには、それほど多くのものを必要と
しない、…たとえ人生の中で何か大きな不運に見舞われたとしても、
私たちには、やがて心の平静を取り戻し、再び普通に生活していく
だけの強さが与えられている」
これ以上のエールがあるだろうか。
こういう本を「必読書」と言うのではないだろうか。
オレも『国富論』そのものを読んでみたいもんだ。
ん〜、でもいつになるのやら…。

余談ながら…
先週、生まれて始めて中国に行った。
広東省のある都市で、急速に近代化する製造業や社会インフラの
現場を見てきて、改めてチャイニーズ・パワーを実感した。
その都市の行政トップの方の愛読書がなんと『国富論』。
往復の移動で読んだこの本と、行政トップの情熱と、沸騰する
中国の社会経済と、そしてその歪を考え合わせると、
何だかいろんな想念が浮かんできて、疲れているのに一睡も
出来なかった。
ううっ、ね、ねむい、でもねたら多分忘れてしまう、嗚呼。
2009.10.18:ycci

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