天地人

▼50回記念 蔵出し5つ★

いやあ、ぶっくぶくも何とか50回目を迎えました。
始めたころは、「いつまでつづくのやら」って思ってましたが、
良い本に恵まれたことと、ひとりよがりの気楽さで、細々と
続けてきました。
そこで、今回、「5つ★はいつ出るんだ?」という少数の催促に
お応えして、初めて「蔵出し」(過去に読んだ本)をします。
この本は、病床の友人に、私からの一番のお見舞いとして
持って行ったほど思い入れが強いものです。

File No.50
『忘れられた日本人』宮本常一(岩波文庫 700円)
オススメ度★★★★★

「日本人って何なんだろう?」というのが、答えの出ない私の
テーマのひとつでして…。
もっと言えば、「人間って何だ?」「人生をどう生きるんだ?」という
問いと思索が、本を読もうとする原動力になるのではないでしょうか?
そういう思索の営みこそが、最も人間らしいと、私は思っています。
この本は、そういう意味で、心の芯の部分に触れてきます。
作者・宮本常一は民俗学者として、日本全国を旅しながら、主に老人
たちの話を丁寧に且つ膨大に聴きながら、各地域の習俗や文化が
どのように伝承されてきたのかを探って行きます。
と書くと、「え、ムズカシー本?」と思われるかも知れませんが、
いえいえ、内容はいたって読みやすいものです。
とくに、「村の寄り合い」とか「女の世間」なんて面白いですよお。
ワタシ的にサイコーだったのは「土佐源氏」。
いやはや、明治の世にも、こんなプレイボーイ(スケコマシ?)が
いたんですねえ。何回読んでも、ニヤニヤしながらも「スゴすぎる」
って思ってしまいますよ、ホント。
まあ、私たちが教科書で習う歴史の何千倍・何万倍もの厚みと深みの
ある「民衆の歴史」があるってことですね。
読むうちに、日本や日本人というものを、少しずつ見直してきます。

実は、私がこの本を5つ★にした理由は、もうひとつあります。
それは、『旅する巨人』(佐野眞一)を読んで、宮本常一の人となり
を知ったことです。
民俗学は、柳田国男と折口信夫という両巨峰がそびえていますが、
宮本常一は、時には野にありながら、徹底的なフィールドワークを
積み重ねていく執念のようなものを強く感じさせます。
生前は、渋沢敬三(渋沢栄一の孫)の援助を受けながら、調査と
研究を続けましたが、そう高い評価は得られなかったようです。
しかし、彼の執念が『忘れられた日本人』を、『遠野物語』や
『まれびとの思想』とともに、日本の民俗学の代表的名著として
後世の私たちに与えてくれたのです。

宮本常一を読むたびに、
芭蕉の「旅に病んで夢は枯野をかけめぐる」という句が
うかんできます。
2009.05.24:ycci

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