FPのひとりごと

▼イノセントJ

夜の帳が降りきった新宿 宵の口



テーブルには 空いたビールの中ビンが5本



ほとんどはMが飲み ポンタは注ぎ役 聞き役に徹していた




 『オレさあ・・』


 『うん』


 『こないだね すごいショックなことがあったんだ』


 『どんな?』


 『長くなるけど いい?』


 『全然OK!』


 『大学入った時・・ 元々入りたくて入ったんじゃないんだけど

  あまりにもなんにもなくて 友達もできなくて落ち込んだの・・』


 『って Mクンが?』


 『そう』『挫折しちゃったんだね たぶん・・』


 『ザセツ?? へーーー・・』


 『で その反動で めちゃくちゃをしてきたの この一年くらい』


 『どういうめちゃくちゃ?』


 『ケンカしたり 泥酔したり ナンパしたり・・』


 『ケンカ・・ ナンパ・・ 人って見た目じゃわかんないもんだねえ』


 『バイト先で 気の合う同世代の友達をいっぱいつくったんだけど

  そいつらと夜な夜なディスコに出没してたの 連れだって』


 『そこでナンパしてたんでしょ』


 『うん あそこで踊ってばかりいる連中ってアホだよね』


 『ナンパの成功率は?』


 『うーーん 勝ち越しはしてたね』


 『やるじゃん!』


 『まあね』


 『で その晩も意気揚々と 4人で繰り出したんだけど

  たまたま友達の友達が帰省してて そいつも一緒だったの

  別にいいけど って感じで 5人でスタンバイしたのね

  そこにおあつらえ向きの女子4人組が来店したんで

  いつものようにオレがナシをつけて合流!ってわけ』


 『ナンパ大成功じゃん』


 『うん・・ でも なんか違うんだよ いつもと なんか・・

  オレは狙ってた隣の子に いつものようにアプローチしたんだけど

  全然反応がないんだよ 全然 なんか会話がすべってんの

  まわりを見たら みんなおんなじような雰囲気

  で 女の子たちの視線の先を見たら同じ男をみんな見てんの

  あの おまけで連れてきてやった友達の友達を!

  しかも みんなとろーっとした表情になってやんの

  もう こっちは えーーっ! てなもんだよ

  そいつが なんかシグナルでもだしてりゃ別だけど

  そいつ 女の子たちの視線を完璧にシカトして男と喋ってる

  しかも まったく無理をしてるような感じじゃない

  いやーー ショックだったね あれは

  己の男としてのポジションをいやというほど思い知らされたね』


 『“そいつ” そんなにイイ男だったの?』


 『郷ひろみを ちょっとウスくしたような感じ』


 『で 女の視線に無関心なんでしょ そりゃモテるわ』


 『だろ 冷静に考えりゃあ当たり前の話なんだけど

  現実に そんだけ差別されちゃうと ちょっと立ち上がれなかったね』


 『“そいつ”新宿二丁目方面の住人なんじゃない?』


 『かもね 美容師だって言うし・・

  オレね それで自信を無くして それからナンパしてないの・・

  二度目の挫折だね』


 『自信なくす必要はないよ Mクン イイ男だよ 全然』


 『ありがとう・・』


 『私のいるギョウカイには“そいつ”みたいなのがうじゃうじゃだよ

  でも半分はナルちゃんで 半分は二丁目の住人

  アタシ全然興味がないよ あんな連中

  オトコは見てくれじゃないって!』


 『それって オレの見てくれのことを遠回しに否定してない?』


 『してない してない 全然してない』


 『そうかなあ・・』  『んっ ポンタのギョウカイって?』


 『えっ アタシそんなこと言った? 気のせい 気のせい

  そんなことより ここにいる男の方が問題だよ!

  誰かがずーっと熱視線を出してるのに シカトしてるし・・』


 『 ・・・ 』



酔いが回ってきて理解力が乏しくなってきたM



ポンタがうまく話をすり替えたことなど気づくはずもなかった
2014.04.17:tnw

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