FPのひとりごと

▼イノセントF

彼岸も過ぎ 日が伸びてきた新宿の夕暮れ前


雑踏の中を腕を組んで並んで歩く姿は どこから見ても恋人同士だった


最初は腕を組むのを嫌がったMにも いつしか抵抗はなくなっていた


どちらともなく 映画でも観ようかということになった



 『Mクン なにが観たい?』


 『キャノンボールがいい』


 『それどんななの?』


 『ド派手なカーアクション映画!』


 『へーー・・』


 『ポンタは?』


 『そうねえ  いまの気分としてはねえ・・』


 『あっ これいいんじゃない “愛と哀しみのボレロ”』


 『はっ なにそれ?』


 『よくわかんないけど ちょっとそんな気分なの』


 『なんかアートっぽいけど オレ アートに全然縁がないよ』


 『ま いいからいいから』



そう言って ポンタはMの腕を掴み 半ば強引に映画館に入った


薄暗い映画館の ちょい後ろ目に陣取った二人


観客の入りは3分ぐらい ほとんどガラガラに近い状態だった


ちょっと暗めのトーンの Mが感じていた“アートっぽい”映画だった


饒舌だったポンタが 映画に入り込むのに時間はかからなかったが


“そういう”映画を苦手にしているMにとっては苦痛でしかなく


1ヶ月にもわたる長期のバイト疲れもあり すぐに眠りについてしまった



 『クシュン』



Mは耳元で聞こえた くぐもったくしゃみの音で目が覚めた


Mが左肩の重みに気付いた ポンタの頭が肩に乗っているのだった


女の子にしては大きな寝息だった ポンタも寝入ったようだった


ポンタのもじゃもじゃの髪の毛が Mをこそばゆくさせていたが


ポンタの髪の甘い香りに妙な安らぎを覚えたM


ポンタにもたれかかるようにして 再び寝息を立てたのだった
2014.03.31:tnw

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