FPのひとりごと

▼中庭の学生服C

その後 勿論のことだが
彼女とは なんの進展もなかった

海での会話の中で 現役の看護師であることはわかった
が 残った思い出は ただそれだけだった

彼女にとっては 迷惑この上ない話であったろう
自分のあずかり知らぬところで 勝手にイメージを作られ
そのイメージとちょっと違うということでガッカリされ
それでもなんとか食いつこうとする男に惚れるわけがない
つくづく馬鹿な男だったのである 僕は

でも いまだに あの出会いのシーンは忘れられない
もう彼女のパーソナリティーとはまったく別の次元で
あの出会いのシーンは心のメモリーに生きている
それでいいのではないか そう思うようにしている


それから十数年後 時は流れに流れた

30代前半だった僕は 成人病検診に出かけた
仲間と一緒で“γGTP”や中性脂肪が気になっていた
検査衣を着せられて 次の検査を待っていると
そこの病院の看護師さんが僕の前を通り過ぎた
別に見るでもなく彼女の顔をちらっと見た
細面ではあったが全然化粧っけのない顔だった

通りすぎて ハッとした

彼女だった まちがいなく

追いかけて 声を掛けようとした
もう お互いに過去を笑える年齢になっていたし・・
でも 僕には追っかける勇気がなかった

彼女の表情には 明らかに生活感が滲み出ていた
母親とか主婦とかの溌剌とした生活感ではなく
どちらかと言えば 疲れた生活感がそのまま滲み出ていた

  『 ・・・・ 』

見てはいけないものを見てしまったのだった


時の流れというのは ほんとに残酷なものである (完)
2011.01.22:tnw

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