▼フジロックの思い出A〜SILENT BREEZE〜

どうも。
お久しぶりですねえ。
スズキです。
夏休み中は全く更新せずにおりまして、申し訳ございません。
とうとうTDR活動再開ということでございやす。
この「TAPEDECKRECORDERSの最期」もガシガシ更新しまくっていくと思うんで、これからもよろしく。

っつーことで、久しぶりのフジロック日記です。
これもいつになったら終わるかわからないんですけど、ぼちぼちやっていきます。
相変わらず長文ですが、お暇なときに。

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ゴンドラから降りると、ゆるいチルサウンドが聞こえてきた。
その音は下の喧騒とはおよそ無縁のモノで、これはどえらい温度差だ。
ふらふらと乗り場から出て初めて見たものは、人間とはしゃぎ回るトラとブタであった。
彼らは人間達と一緒に、「だるまさんがころんだ」をやっている。
子供も数人混ざっているようだった。

まだ朝なので人は少ない。
おそらく、全体を見回しても30人もいないのではないだろうか。
乗り場のすぐ右手には、ロッジ風のレストランがあった。
どうやら、そこでビールやソフトクリームを売っているらしかった。
ビールを買って出てきた男を横目に、音のする方へ向かって行った。

気温は決して暖かくはなかった。
その時、俺はpre-schoolのツアーTシャツを着ていたが、
肌寒いような、暖かいような、なんとも言えないような体感温度だったのを覚えている。
ゴンドラ倉庫の裏には小さなドームがあり、そこがDJブースらしい。
その後ろには、スタッフが休むところなのだろうか。
小さなトラックとパラソル付きのテーブルとイスが置いてあった。
ミキサーなどが置いてあるスタッフブースの横に小高い丘があり、
そこには鉄骨でできた二階建ての簡素な展望台が建っていたので、
俺は上に上がって、山の景色やDJブースを眺めたりした。
特に何かが始まる様子もなく(そのDJもプログラム内のものだと思っていなかった)、
遠巻きにそれを見ていたものの次第に暇を感じてきてしまい、
ブースと動物ランドの間を行ったりきたりしていた。
その時、一人の女がゴンドラから降りてきたのが見えた。
彼女はレストランの入り口の階段の近くまで歩いてくると、立ち止まり誰かにメールしているようだった。

天気は曇りだったが、時折、太陽が顔をのぞかせたりもする。
少しの間、陽の光が女の姿を照らした。
歳は俺と同い年くらいだろうか。
体格は細めで、髪はうっすら茶色でセミロング。
背丈は、まあ標準といったところだ。

なるほどなるほど。

俺はレストランとブースの間の辺りで立ち止まり、何気なく女の方を見ていた。
彼女はメールを送り終わったらしく、携帯を持ってきたバッグに閉まっている。
と、次の瞬間、彼女は顔をあげて俺の方を見、目があってしまった。
俺はふっと目線をずらして、
「別にあなたのことを見てたわけじゃないんですよ。ちょっとその辺を見渡していたら、偶然、あなたの方を向いたときに目があってしまったんです。おわかりいただけますか。ほら、その証拠に今は向こうで遊んでいる子供を見ているじゃないですか。それにしても、はっきりしない天気でなんだかちょっぴり憂鬱ですね。」
というスタンスを取ることにした。
しかし、視界の端の方にその女がまだ見えている。
そして、その女も依然、俺の方を見ている。

これは困った。
どうやら俺に気があるらしい。
何も困っているのは、別に彼女が好みではないからというのではない。
その点に関しては、悪くない気がする。
・・・いや、好みのタイプな気がする。
してきた。
そうに違いない。

さらに俺は、なにやら胸元のあたりに視線を感じ始めた。
俺の体を品定めしているというのか。
すると、とうとう女は歩いてこっちに向かってきた。
さすがの俺でも、これから起こる事態の予測はついた。

「逆ナン」だ。

さらに困った。
別に俺は一人でフジロックに来ているのではない。
菊地さん、ウェルさんという二人の先輩と一緒に来ているのだ。
というか、「一緒に来ている」というよりも、
車に乗せてもらったりテントを使わせてもらったりしているので、
「連れてきてもらっている」という言い方の方が正しい。
ここで彼女にそのようなことをされては、これからの計画に関わる。
あとで、菊地さんとピクシーズを見なければならないし、
第一、今だって昼の三人の待ち合わせの時間を指定されているのだ。

そんなことを思っていると、女は別の方向に向かっていた。
ブースの方だ。
そりゃそうだ。
わざわざ、男を見つけるために上に来る奴はいない。
普通に音楽を聴きにきたのだろう。

俺はそのほんの数分の妄想を楽しんだあと、レストランにビールを買いに行った。
少しずつだが人が集まってきているようだ。
DJブースの周りでもちらほら人が踊っている。
先ほど、だるまさんがころんだをしていたブタもこっちにやってきて踊っている。
俺はその後ろの方で、座ってビールを一口ごくりとやった。

空もまた、少しずつ雲の占める割合が少なくなってきたようだ。
周りでは踊る人もいれば、原っぱで遊んでいる人もいる。
この静かで開放的な雰囲気の中でかかるチルアウトミュージック。
またビールを一口飲む。
この気温がちょうどよく思える。
陽の光が、前よりも少し長い時間あたるようだ。
そして、もう一口ビールを飲む。
心地よい風が吹く。

もうこれは最高だな、と思った。
地元にはライジングサンというロックフェスがあるが、
これはそこには存在しない独特の雰囲気だった。
というか、こんな雰囲気、今まで味わったことがない。

そんなことを思っていると、二足歩行のブタがこっちに近寄ってきた。
ブタは俺に向かって手を差し伸べた。
俺はビールを持っていない方の手で、そのモコモコの手を握り立ち上がった。
ブタは常に笑顔だ。
すると、ブタは音楽に合わせて踊り始めた。

そうして俺はしばらくの間、ブタと手をつなぎながら踊った。
わけがわからんがおもしろくて仕方がない。
俺は少し酔った顔で、アハハと笑った。

DJブースの奥では、先ほどの女が機材をトラックから出していた。
客かと思っていたがどうやらスタッフらしいな、と俺は一瞬思い、またすぐ忘れた。
そのスタッフ達の様子を見ると、次のプログラムが迫っているようだった。
それも見てみたくなってきたので、俺は菊地さんに待ち合わせ時間を遅らせてくれないかというメールを送った。

プログラムには、次は「golf」と書いてあった。
その時はまだ、golfについてのことなんて全く忘れていたし、
さっき、あのスタッフの女が俺の方を見ていた理由もまた、全く知らなかった。

(つづく)

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2004.09.27:tdr02

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