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▼「事実と物語」

科学技術の急激な発展によって、人間は何でも自分の欲しいものを手に入れるようになった。
科学的な考え方のもとになる「事実」を知ることが最も大切で、事実か事実でないか、ということに価値判断の基準を置いている。
しかし、人間が「生きている」と実感するとき、「命あるもの」として自分のことを感じるとき、その実感を深め、他人と共有するためには「物語」が必要なのではないだろうか。といって、まったくの虚構の物語は、人の心を打たない。
事実に反するのではなく、自分の事実を伝える「物語」こそ意味がある。
レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳『家庭の医学』(朝日新聞社)はそのことを深く感じさせるすばらしい本である。この本の特徴は、まず「貧血」「転移」などの医学用語が挙げられ、その定義がコラムに書かれている。そして、そのような症状によって患者とその家族たちがどのような「物語」を生きてゆくのかが、しっかりと語られる。
「物語というと絵空事のように思う人があるが、そんなものではない。本書の文には、なんらの虚構はない。それでいて、それは人間の「いのち」の尊さを読む人に伝える力をもっている。いのちを「みとる」ことの意義を深く感じさせる作品である。

(ココロの止まり木より)

2006.09.29:反田快舟

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