第五十四話「知る事の大切さを考える ⑤」

 先日ピーチに乗って、関空まで飛んできました。「ピーチって何よ」と思われる方に説明しますと、今話題になっている仙台空港と関西空港の間を飛んでいる、格安航空会社のことです。搭乗する日によって金額の違いはありますが、私たち夫婦が利用した時は、一人片道、ほぼ片手の料金でした。これまで色々の方法で関西方面に行きましたが、また一つ、新たな『道』が出来ました。
 大阪府豊中市から宮城県利府町に移り住んで、もうすぐ二十五年の月日が過ぎようとしています。その間の、年末年始・夏休みやゴールデンウィーク・妻の父親の看護・葬儀、二人の息子の転勤(広島と岡山)と色々な理由のもと、ありとあらゆる方法で、仙台から関西、広島、岡山と走り回ってきました。夫婦と小さな三人の息子たちの時は、仙台港から名古屋港までのフェリーを利用することが主でしたが、子供たちが大きくなるにつれ仙台から広島までの高速道路を自走することが増え、小さな子犬が家族の一員となった頃からは、高速道路を利用するのが当たり前の手段となっていました。
 二十五年の間に高速道路はどんどん進化し、日本の大地を網の目のように覆っていきます。東京を通って行くか、一般道と高速道路の乗継で日本海側を走るのか?それまで二つくらいしかなかった行程が、東北道・北関東自動車道から関越・長野・中央道、名古屋の湾岸道を抜けると第二名神高速道・・・走るルートは、その日の気分で決める事が出来る様になり、高速道路の付帯施設もどんどん新しく成っていきました。楽しく走る事が出来る道路に、どんどん進化しているのです。
 今は、三人の子供達も成長自立し、夫婦二人だけの生活です。「お墓」の仕事が少なくなる冬の時期は、自家用車をフェリーに乗せ、名古屋港まで行き、その後岡山・広島まで自走します。そうすると、車の荷室にはお土産の『宮城のおいしいおコメ』を乗せる事が出来るのです。
 この二十五年の間、もちろん『空路』も選択肢の一つではありましたが、到着してから帰るまでの数日間必要となる、現地での移動手段(レンタカー等)を考えると、新幹線移動と同様に、かなり高価な移動手段となります。でも、ピーチの登場でそれまでの考え方は、大きく変わりました。夜行バスの半額の運賃と、新幹線の半分以下の移動時間なのです。とても魅力的です。(その分のリスクも当然あるとは思いますが?)
 仙台に来たばかりの頃は、家族旅行の延長のような感覚で里帰りをしていました。いまは、岡山に住む二男、広島の長男家族に逢いに行くのが大きな楽しみとなっています。でも、それと同じくらい大切な理由に『お墓参り』が有ります。
 実を申しますと、三十年以上もこの様な仕事をさせて頂いているのですが、若いころは墓参りに進んでいくということはありませんでした。結婚して子供が生まれ、家族というものが出来上がって行くにつれて、お墓に行くことが増えていったのです。
 お墓の前で家族と一緒に手を合わせると、頭に中で色々な思いが浮かんできます。高校生の時に亡くなった両親の顔は、ぼやけて輪郭ぐらいしか思い出せませんが、なぜか母親が倒れた日のことは今も鮮明に思い出されます。今から四十年前のことです。「あの時ああしておけば、こうしておけば・・・」という思いが今もあり、墓の前に立った時の母親に対する思い出は、後悔のほうが多いのかもしれません。
 その時、まだ高校生だった自分に、出来る事は何も無かったのでしょうが、それでも何か必要な『知識』が有ったのに、それを知らず、何もする事が出来ずに今日まで来てしまい、その事を今も後悔している様に思えるのです。そうした思いを持った方は、多く居られるのではないのでしょうか?
 また、お墓の前に立つと、何か『感謝』と云った思いが心の中に溢れてきます。その一つが、家族を持つことができたことに対する感謝です。私の結婚の時、亡くなっていた私の両親が、何もしてはくれなかったことは当然ですが、それでも、何かの『導き』のようなことを、私にしてくれたのではないかと思えるのです。
 今は、年に数度しかお墓参りに行けない私の代わりに、広島に住んでいる長男夫婦が、私の両親のお墓、岡山のおじいちゃんのお墓にお参りしてくれます。それも大きな『感謝』です。
2013.06.15:米田 公男:[仙台発・大人の情報誌「りらく」]