獅子頭の磨き直し

  • 獅子頭の磨き直し
所蔵する獅子頭の艶が消えたので何とかしてくれとの依頼があった。

長年に渡り十日町白山神社の総代を務め、獅子頭新調の際には大変お世話になった方である。

依頼者宅に訪れると奥の床の間にガラスケースから出された獅子頭があり、私を待っていた。


獅子頭は中津川小屋の渡部亨氏の作で、特に鼻先から白っぽく艶消しになっていた。

ケース内に飾っていた事もあり、タテガミの大部分は仕上がり当時の、霞がかかった様な7分艶が保持

されている。タテガミは状態が良く、タバコのタールの変色には免れていた。持参した研磨剤「ピカール」

で磨くと少しだが、長年の汚れが取れ艶が出てきたが、そもそも7分艶の加減なので、自宅に持ち帰り洗浄

してから研磨する事にした。


しかし、内部を見ると記名が無い。



記名には制作した年月日、施主名(神社名)彫師や塗師名などを書き入れる。

彫師塗師が書かれていない時は塗師によって筆跡の癖で塗師が分かる。細い腰のある特殊な面相筆で濃漆

でシュッと書いた線は、熟練した塗りの技術を表している。


そこで高齢の当主に、当時の記憶を促す様に幾つかの質問をするが平成期という事だけで思い出せない。

この獅子頭は同町の親しい仲介者から勧誘され購入したのだという。

通常は購入の際に記名を入れるのだが、記憶が無いという。近くに住む弟さんも亨氏の獅子頭を購入して

いる。昭和61年から平成3年の5年続いたバブル景気の際は、獅子頭も良く売れ、中津川の亨氏や太田康雄

氏も数多く制作したと聞いている。その際、亨氏にはその仲介者が西置賜各地を網羅し注文を取ったらしい。

亨氏も中津川小屋から営業や納品は難しかったので、仲介者の存在はありがたかったのだろう。

バブル景気後も神社や個人宅用の獅子頭販売バブルが続いていたのだ。

太田康雄氏は行商を行っていたので、自分で営業も兼ねていたと思われる。








さて、研磨剤を布に染み込ませ何度も研磨を重ねると艶が出てきて、眠っていた獅子が目覚めた様に見える。

タテガミも一本一本手で梳いて解していくと、ゴワゴワからフワッとした髪型に戻った。今回汚れは少ない

ので、洗髪は行わなかった。口の開きが悪く、引っ掛かるので軸棒を外して少し削り調整し、摩擦部分に蝋

を塗った。軸棒の外れを防止する栓を取り付けし、軸棒のコブにも外れ止めを取り付けし耳の軸穴には麻紐

を通して固定した。飾り獅子という設定でだろうか最後の詰めが無い。しかし、制作後20年でこの程度の

修正で済むのであれば、木地の乾燥や調整は確実に行われている事が分かる。彫りも塗りも最高級の獅子頭

だろう。






毎日、獅子に手を合わせているという依頼主も心配していると思うので、なるべく早く自宅にお返したい。



















2022.09.07:shishi9:[コンテンツ]

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