昨年を振り返ると、正月明けは勧進代の森助獅子モデルの獅子頭の塗りが仕上がっていた。
今年の正月は少し遅れ気味で歌丸の天保九年の獅子頭モデルを塗りに出し、ようやく上塗
りに入った。
獅子の白木木地、漆の手間のかかる下地のベージュ色から、漆黒に大変身する劇的な瞬間
。獅子の造形イメージが一気に現実化してくる獅子彫りの醍醐味でもある。
塗師に獅子を託して、なんとも自分の手が届かない忍耐の工程だが、送られてくる写真を
観ては一喜一憂する楽している。次の工程は獅子の内部や唇などの朱や黒の中塗りの為の
研ぎである。この水研ぎの工程が漆芸に付き物の、忍耐と事が進まないジレンマ地獄。
カシューを塗る際に体験しているが、これを怠ると仕上がりに歴然として現れるので憎い
工程なのである。
上塗りの黒の塗り工程では艶が抑えられ70パーセントの艶である。この漆黒の艶もまた別
な獅子の表情で良い。霞みかかったフワッとしたトップライトの反射が、獅子の造形を包
み込んで醸すのだ。最終仕上がりの艶も朱や金とのコントラストの中で照明によって透過
したり乱反射したりして七色に輝く場合もある。最後に白いタテガミを取り付けると、そ
の白さが前に出て、漆黒がより奥へ奥へと沈んでいく。
また獅子頭の工芸的な魅力は新調時の美麗さもあるが、祭りでお神酒を浴び、使い込まれ
何十年も風雪に耐え金箔も剥がれた経年美と変化してくる。
その鑑賞眼を会得するには獅子と同じように自分も風雪に耐えなければならない覚悟がいる。
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