名古屋で制作されたと思われる神楽系の獅子頭を落札した。
奥行き30cmと小ぶりで重さは1kgと超軽量の寄木造りの獅子頭である。
耳と顎の軸棒と舌が欠損し、目は鍛金した真鍮で、左の黒目がトタンで作り直され大きさが異なってい
る。彫刻部分に寸分違わず嵌め込まれて技術の高さを感じる部分である。
左目に打撲による、くぼみがあり目全体を歪ませている。
頭部の左軸穴部が三分割に破損し二つの鉄のカスガイと竹釘で補強しているが、接着剤の膠(ニカワ)か、
のり漆が接着力を失い剥離した状態だった。
直ぐにカスガイを取り抜き木工ボンドで接着し補強した。
外したカスガイは元に戻す予定である。このカスガイも鍛冶屋で制作した特注品だろう。
上下奥歯に隙間があり「大ぬさ」や神楽鈴を咥える為のものだろう。耳の下の巻毛が四つあり三つと単独の
巻毛に分かれて、何か神楽の系統を示した星座に由来するデザインでは無いかと感じている。
今回の獅子頭の型は、全国的に見られるような一対の雌雄宇津権九郎型とも違う形で注目した。
鼻筋に見られる威嚇や憤怒の表情を表す皮膚のシワの彫りは長井市の勧進代、葉山、西高玉の長谷部吉之助
作の三獅子に見られる様な形で、眉間や目や眉、波打つ唇には鮎貝型の特徴を彷彿させる。
耳の周辺には丸い鮮やかな部分が残り、耳の軸に通した円形の座布団が取り付けてあった事を意味している。
上下の歯の噛み合わせも完璧で均一に隙間なく調整されている。
顎を外すのが大変で、軸棒が無くても顎は外れる事はない。
この獅子頭が制作されたのは、おそらく明治期で百年以上経過しているが狂いも少なく相当な技術力を集結し
た獅子頭である。名古屋産の獅子頭は分業と問屋販売の為に記名は残されないのが常である。
白鷹町鮎貝八幡神社の獅子頭の横に置いて比較してみると、時代を超えてルーツを遡ると繋がってくる獅子頭
に見えてくる。
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