日本の伝統芸能の元になったという反閇(へんばい)とは、一体どんなものだろうか?
実際にどの様な所作なのだろう・・?
頭の片隅に、そんな疑問を浮かばせ岩手県北上市に出かけた。
先月9月の26日岩手県北上市の「鬼の館」を会場に岩手の代表的な伝統芸能である鹿踊と念仏剣舞、
山伏神楽が上演されるという情報を聞きつけ訪れた。パンフレットの表題に「反閇 祓2020」鎮魂
供養と悪疫退散の芸能奉納・・とある。
北上市立鬼の館玄関モニュメント
鬼の面のレプリカ
今年はコロナ禍の影響で例祭は日本全国津々浦々、休止の知らせを聞く昨今であるが、そういった非
常事態に自分達の伝承する伝統芸能を改めて見つめ直すための公演であり、鹿踊と念仏剣舞、山伏神
楽を同時に観られるのは稀な機会である。
今回の視察は特に、岩手の伝統芸能における神仏混合の「反閇」と「山伏神楽」に注目した。また剣舞
(けんばい、けんべい)の語源は陰陽師や修験者(山伏)が用いる歩行術の際に発せられる呪術である
反閇(へんばい)からきたものとあり、鬼神による反閇という意味が秘められていると考えると納得が
行く。さらに鬼剣舞は念仏踊りの中の、一役だった事も意外で、ふるさと長井の伊佐沢念仏踊りと比べ
てみると、ひょっとこ面を付けた「面すり」の役が重なってくる。鬼剣舞で用いる忿怒の鬼面は阿吽の
表情で青白赤黒黄の五色で陰陽五行思想の東西南北の方位や四季を表し、仏教の五大明王を象徴してい
る。鬼剣舞の鬼とは明王の事で、いわば仏様の反閇の舞とでも言い換えられるのだろうか?
五大明王の面 北上観光コンベンション協会HPより引用
鹿踊または鹿躍(ししおどり)は三団体。鹿踊と書いて「ししおどり」と読む。
鹿踊
参加団体 行山流口内(ぎょうざんりゅうくない)鹿踊 演目 礼庭(一番庭)
春日流落合鹿踊 演目 一番庭 徐魔讃魂(じょまさんこん)
金津流石関獅子躍 演目 庭清め
念仏剣舞(ねんぶつけんばい)
参加団体 南下幅念仏剣舞(みなみしたはばねんぶつけんばい)
演目 道太鼓 寄席太鼓 回向太鼓 ごひゃらく(後生楽)
三方七巡り 納太鼓
相去鬼剣舞(あいさりおにけんばい)演目 回向念仏 一番庭 一人加護
滑田鬼剣舞(なめしだおにけんばい)演目 後生楽 回向念仏 三人加護
鬼剣舞の由来は大宝年間(701~704)修験山伏の祖 役行者の念仏踊に始まり、大同年間(806~810)出
羽国羽黒山で舞われ、その修験山伏によって広められた。その後、康平年間(1058~65)安部貞任・正任
が、この踊りを好み領内に勧めた。鬼剣舞は中世の修験・念仏踊りをもとにして近世初頭から中世まで現在
見る様な芸態に仕上がったものと考えられるとある。(鬼の館展示解説シートより引用)
山伏神楽
参加団体 成田神楽(なりたかぐら) 演目 御神楽(みかぐら)八幡舞 権現舞(獅子神楽)
上根子神楽(かみねこかぐら) 演目 八幡舞 山の神 権現舞(獅子神楽)
幸田神楽 (こうだかぐら) 演目 五穀の舞 権現舞(獅子神楽)
権現とは神仏の姿の権(仮・かわり)に現れるという意味。獅子(権現様)の姿を借りた神仏に捧げ物をし、
家内安全、招福除災、悪疫退散を祈願する祈願舞。 (反閇祓2020のパンフレットより引用)
演目の最後は会場三ヶ所に分かれ権現舞が披露された。公演は「鬼の館」施設前会場にて朝9時から始まり午
後3時まで6時間休憩無しの熱演だった。多くの演者方の迫真の演技は、充分と心に刺さり実に満足の行くもの
ばかりだった。鹿踊、鬼剣舞などに若い青年や女性の演者が多く、頼もしく羨ましく思えた。
鹿踊や念仏剣舞、山伏神楽の演舞の所作の中に、反閇と思われる所作を探すことに集中した。
以前紹介したが、反閇は中国の禹歩と同一の意味で日本の芸能の元になり、古代武術や難場歩き、相撲の四股など
にもその影響が秘められていて北斗七星の歩術(中国では踏斗)という禹歩(星歩)が伝えられたという。長井市
総宮神社の獅子舞の「ろっぽう(六方・六歩)」という所作があり北斗七星の形に歩く上級の位置での祓があり、
修験者から北斗七星の歩術として伝えられたのではないかと推測している。
鹿踊の衣装を試着
張子作家さんの「はり屋」さん作の見事な超細密着彩の鹿踊り
鹿踊衣装の襦袢
鹿頭用の鹿の角 白い物はアルミ金属製
長井の獅子舞のルーツを探るには、今回の鬼の館の催事は大いに参考になり、岩手の人との出会いもあった。岩手や
他所の芸能を探ることは、故郷の芸能の歴史に通ずるものだろう。
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