斎藤與次兵衛伝2

明治から昭和初期まで総宮神社の獅子頭を務めた斎藤與次兵衛氏が五十川薀安神社の獅子舞を伝授
したとの資料が致芳地区公民館にあるとの情報が入った。簡単な資料や口伝で、その話は耳にして
いたが、その内容について詳しい資料が存在していたのだ。

  昭和五十年十月 丸山孝太郎氏寄稿   五十川獅子頭の年代  薀安神社宮司編集

8ページほどの冊子で、挨拶文には

昭和四十八年 前総代に獅子頭の年代と獅子の由来について調べていただきたく ご依頼申し上げ
ました。このたび その表現を見たことは獅子連一同嬉しく御同慶に堪えません。先輩者御方々の
獅子舞の御苦労ひとかたならぬものがあった事を知り 我々も一生懸命努力いたし文化財的 斎藤與
次兵衛獅子舞の保存と振興につとめたい。  
昭和五十年九月吉日 獅子頭 別部 啓 小頭 佐藤 学 獅子連一同

文章の締めに「文化財的斎藤與次兵衛獅子舞」とあり與次兵衛氏の功績を賞賛している。

この資料は 前総代丸山孝太郎氏(当時70歳)が詳しく纏めた原稿を、嶽本宮司がガリ版で原紙
を切ったものである。神社の歴史、獅子舞伝来について、獅子舞の意味について記されている。

抜粋

薀安神社は東西五十川氏子の崇敬する鎮守 産土神(うぶすなのかみ)で社記には元慶二年(878)
鎮守将軍小野春風軍兵をひきいて下向す。そのとき藤原薀安 当地に至り、仁徳を施す。里民その偉
功を仰ぎ一祠(ほこら)を造営し奉賽(ほうさい)す。とあり
その後文政の御代になり宮社改建の気運起こり、東西五十川の氏子より奉賀わ賜り村あげて長年月
かかり文政十年五月みごとに社殿改建の大事業成し遂げ 秋九月九日記念祝賀祭典を行う。さぞやに
ぎにぎしかったことであろう。
現 社殿がその時造られたもので、本殿の彫刻は宮内(くない)中野又惣の遺作で稀に見るすぐれた
彫刻、見れば見るほどすばらしいなぁと思う。大事にしなければならない。

・・・・とあり後半は丸山翁の心情が溢れてきている。

その後、文政時代の旱(ひでり)大洪水などの内情に触れ、獅子頭についても記されている。
獅子頭は竜頭で布を漆で幾重にも張り固めたもので平吹市之丞の作とある。以前、薀安神社の獅子
頭の制作を依頼された際、モデルにした獅子頭である。やはり大変薄く軽く作られていたが、漆と
布の張り合わせだけでは獅子舞には当然耐え得るものではない。大型の獅子頭を薄く薄く、限界ま
で軽量化し、麻布で全体を布着せしたのではないだろうか? 平吹市之丞の作とあるが、獅子頭の彫
りは宮の大工 高橋小平と推測している。

祭礼と歴代の獅子頭(役)角力の由来についても記されている。

初代目 小柳(しこ名)角力の小柳と獅子頭(役)の制度は同時期に作られたもので初代小柳は辰
右衛門とある。

別紙資料(平成十三年 手塚勝雄氏調査による)には小柳襲名と歴代獅子頭(役)がまとめられて
いた。

初代目 辰右衛門 別部家
二代目 長左衛門 別部家
三代目 友吉   色摩清作家
四代目 円蔵   佐藤家
五代目 平次   佐藤家
六代目 好雄   色摩茂治 父
七代目 富    中野
八代目 幸治   平田
九代目 正広   成田  
十代目 洋平   佐藤 現在の角力


尚、六代目と七代目の間には戦時中のため仮の角力が存在していたという話である。獅子頭(役)
については十三代に渡り記されているが割愛する。
 
斎藤與次兵衛氏ついては

長井町宮 県社総宮神社名代獅子頭 與次兵氏(横町)県南きっての名人であったという。たとえば
五升桶に水をいっぱい入れて、こぼさずに舞ったという。きびしい練習稽古をくりかえし、一週間
もアメヤ商店(色摩文七氏宅、その当時飲食店を営んでいた関係で)へ泊めて指導を受け、雨降れ
ば講義であったという。・・中略
四代目獅子頭 菊池利吉氏に與次兵衛流秘伝修得受け、それから名称 ニラミ獅子文化財的獅子舞出現。

・・・とある。

また総宮神社の例祭に五十川の獅子連が加入が認められたとある。寺泉 五所神社の警護(角力)が
総宮神社の警護を兼ねて務める初登場の時、菊池利吉が警護の指導に当たったとある。獅子頭役は
獅子宿(獅子舞の休憩場所)を長年に渡り担い、獅子舞の世話役も兼ねていたようだ。

総宮神社での獅子舞参加も大正末期頃まで続いたが、その後途絶えた。

長井市史に七代目 中野 富氏の勇壮な角力姿の写真が掲載されていて、私も記憶に残っている。その
後ビデオカメラが出てきた頃から、写真や動画撮影が普及し八代目 平田氏の角力の獅子さばきの映像
が残っている。
この様な資料や記録は、筆者の郷土愛に基づく大変貴重な資料であり、斎藤與次兵衛氏の足跡を記し
た資料としても重要な資料である。まさに公民館隅の棚からぼた餅・・といった発見である。提供し
ていただいたご理解ある公民館主事の方に感謝を申し上げたい。
 



2019.10.25:shishi7:[コンテンツ]