破損した獅子頭復活
とある神社の獅子頭の顎が複雑に破断し、入院した話を以前ご紹介したが、修理が完了した。 こんなに状態なっても直せるという結論であるが、破損前の様にバンバン歯打ちをできるかと 言うと不安は残る。同じ破損場所か、別の箇所かが破損する可能性があるが、しばらく程度は 大丈夫だろう。再びあの獅子が舞う勇姿を見たいものだが・・・。 最近、FRP(ガラス繊維にポリエステル樹脂を含浸させて硬化させる工法)を用いての修理は 頻繁に出てくるが、新調の獅子頭の下地に施工して補強してしまうのが効果的である。漆工に おいての補強の布着せは割れの予防に効果を表すが、強度は劣る。割れの修復にはアリ継を用 いるが、いずれ同じように破損する場合が多いようだ。その点、亀裂を広い面で包んでしまう FRP修理方は、かなりの修復効果があるようだ。歯打ちの衝撃に晒される上下の前歯付近の修 理にはカーボンファイバーを積層し、カーボンパテで仕上げる方法を試験している。 FRP積層硬化直後 仕上がり 修理した獅子頭は昭和初期に奉納され91年経過している。メンテナンスをしっかり管理出来れ ば、まだまだ現役は継続できた筈であるが致命的な破損をしてしまった。使用頻度のある神社 なので管理の問題は重要だろう。記名を消してしまえば、もう少し広い部分まで積層させて補 強できたのだが、非常に重要な記名で有り、達筆さ精緻さを感じさせる筆使いで消してしまう のは畏れさえ感じる記名だ。 右側がほぐしている状態 タテガミも洗浄し、絡み合ったヤクの毛を念入りにほぐしてみると、ふんわりサラサラの上品な タテガミに蘇った事には驚いた。無事納品を済ませ、今はあの逸品の獅子頭の安寧を祈るばかり である。
2019.10.08