まほろば天女ラクシュミー
▼1話 プロローグ
プロローグ
ギャァ、ギャァとカラスがけたたましい鳴き声をあげて飛び立ったのは、夕闇が迫り薄暗くなった杉木立の中。
雪解け水でぬかるんだ林の中を、この現代日本に似つかわしくない、まるで中世ヨーロッパの魔法使いのようなローブに身を包み、フードを目深にかぶった猫背の男がひとり杖を突いて歩いていた。
「この辺にするか・・・」
男はそうつぶやくと、杖で地面をつつく。すると杖を中心にマンホールほどの大きさの地面がまるで沼のようにどろりと変化した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
男は何か呪文をとなえながら、杖で沼と化した地面をこおろこおろとかき回し始めた。すると、沼の中から鈍く紫色の光が放たれ始めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
男のとなえる呪文が次第に大きくなりはじめる、それにあわせて沼から放たれる光も次第に強くなっていく。
男はローブの袖から直径一センチほどの珠をつまみ出した。そうしてその珠を光を放つ沼の中へと落とす。
珠が沼に落ちると同時に沼からの光がより強く放たれた。
沼は次第に泡立ち始め、波が立ち、ついには隆起した。
高さはおよそ二メートル五十、その形はまるで出来損ないの泥人形のようであったが、おおよそ自然界には存在しないような毒々しげな紫色を呈していた。
荒々しく荒れていた肌が、次第に滑らかになっていったかと思うと、頭部と思しき器官に半月状のつりあがった真っ赤な目が開く。
そうしてソレは、丸太のような腕を高々とあげると目と同様に真っ赤な口を開き、
「ダデーーーナーーーーーーーッッッ」
と、大きく叫んだ。
ローブの男はその姿を見ると小さく笑いを漏らした。
「くくく、いいぞぉ、これでわれらの悲願がかなう。この町の住民たちを、恐怖のどん底に突き落としてやれるのだ!ふふふふふ・・・・・・はぁーっはっはっはぁーーーーーっ」
男の笑いは、いつしか哄笑へと変わり、うす暗い杉木立の中に響き渡っていた。
[画像]
↑クリックすると別枠でOPテーマが流れます
なお、この企画はこちらのスポンサーの提供でお送りしております
2012.02.01:shinha
⇒HOME
(C)
powered by samidare