第16話 フラワー流“旅”の楽しみ方を (白兎駅)

 羽前成田駅を出ると約2キロにわたってまっすぐに北上し、ウサギの耳が描かれた可愛らしい待合室のある白兎駅に到着する。ホームに降りると西に葉山の山並みが連なり、田甫が山のふもとまで続いている。鉄道写真家 中井精也さんがフラワー長井線を「里山の風景の中をゆく鉄道の原風景を味わえる貴重な路線」と評しているが、その代表的なスポットがこの場所である。葉山は朝には朝陽を受け、夕には光輪をまとう。季節ごとに装いを変え、白兎伝説を生んだ荘厳な山容である。

 

 長井が生んだ彫刻家長沼孝三氏は、「長井の心」と題する文章で葉山を背景とする長井の風景を「世界の宝」であると称え、人間形成にとって理想的な環境であるという。以前、高校生と話す機会があって、ふるさとで一番好きな風景を訊ねたとき、「列車から眺めた葉山」との答えが返ってきた。人間形成の基礎である子供時代、思春期の時代を過ごした土地、ふるさとはどんな人にとっても格別な意味を持つものであろう。

 

 駅ノート作家の一人は、「この風景に会いにきました。会いたい風景にやっと会えました」と書いていた。自然景観への共鳴はそこに住む人だけのものではないようである。旅に出る動機や目的は人それぞれであるが、初めての土地で無人駅に降り立ち、山並みを眺めながら、心に移り行くよしなしごとを心に刻んでみるのも旅の楽しみではないだろうか。

 

 葉山神社と白兎の伝説はこちらから

   → 葉山神社 | 白兎(しろうさぎ) | 致芳ふるさとめぐり | 長井市致芳コミュニティセンター (chihou-cc.org)

 

 

 駅ノート作家の投稿はこちらから

  → この風景に会いに来ました:おらだの会 (samidare.jp)

 

 

【おらだの会】写真は山形鉄道㈱提供。

2023.03.26:orada3:[長井線読切りエッセー]