第6話 落語列車「鶴の恩返し?」(おりはた駅)

 この地域は古くから養蚕や製糸産業が盛んで、駅から徒歩8分の場所には「鶴の恩返し」の伝説が伝わる鶴布山珍蔵寺がある。珍蔵寺には鶴の羽で織った織物を寺の宝物にしたと伝えられ、梵鐘には鶴の恩返し伝説が描かれている。また地区には、「鶴の恩返し」伝説が書かれた江戸時代の古文書が残されているが、文書で残っているものとしては、日本で最も古いものだという。さて、山形鉄道に落語の得意な車掌さんがおられまして、「落語列車」を楽しんだことがあります。「鶴の恩返し」ならぬ「鶴の恩返し?」の一席をお楽しみください。

 

 昔々のこと、鶴を助けた若者がじぃさまになって、また罠に掛かっている鶴を助けたそうだ。じぃさまは助けた鶴を家に連れ帰り、休ませたそうな。やけに静かなので障子を開けてみると、もぬけの殻で、家財道具一切がなくなっていたけど。じぃさまは鶴だと思っていたげんど、鶴に変装したサギだったそうだ。これに懲りずにじぃさま、また鶴を助け、家に連れて帰ったけど。妙にその鶴が気に掛かったので、障子の隙間から覗いていると、屋根伝いにピョンピョン走って逃げて行ったど。じぃさまは鶴だと思っていたけんど、鶴の皮を被ったトビだったんだど。これが最後だと、じぃさまは、また鶴を助けて家に連れて帰ったんだど。隣りの部屋がやけに騒々しいので、障子を開けて見でみっちど、箪笥や火鉢をドンドン運び出してんなだど。じぃさまは鶴だと思っていたげんど、鶴のマークに憧れていたペリカンだったんだど。

会場は、笑いの渦かと思いましたが、皆さん妙に白けている。これが本当の「シラサギ」だった、なぁ~んちゃって。お後が宜しいようで。

 

 さて山形鉄道の車掌さんは、方言ガイドを始め様々な特技を持っているが、その一人に演劇が好きな車掌さんがいた。彼の夢は列車の中で演劇をやることだった。熊野大社の三羽のうちの一羽が脱走して列車に乗り込んでドタバタ劇を繰り返しながら白兎駅で降りて、葉山の峯に昇るストーリーなんだ、と笑いながら話してくれた。列車は、社員の夢も運んでいたのだろう。彼は若くして旅立たれたが、「演劇列車」の題名だけでも聞いておけばよかったと思う。

 

 

【おらだの会】駅舎は、昨年、地元の方々の手によってリニューアルされました。駅舎の中には子供たちが描いた絵も飾られています。

2023.02.23:orada3:[長井線読切りエッセー]