新幹線のドアが静かに閉まり、列車はホームを離れていった。笑顔で見送っていた家族連れの姿も消えていた。思えば学生の頃、ここから彼の元に出かけた。新調した服を着て、どんなことを話そうかと考えながら。トンネルの向こうは、いつも明るい日差しに包まれて見えた。彼はそのまま東京の会社に勤め、いつしか二人の間には、見えない溝ができていた。もう二度とこのホームで彼を見送ることはないのだと思った。跨線橋を降りるとき、その階段がどこまでも暗い世界に続いていくように思えた。振り払わなければならない想い出が重かった。
運転手が跨線橋の階段を眺めている。階段を降りて来る人がもういないことを確認すると、運転席に着いた。ドアが閉まり、列車は静かに走り始めた。窓にほほをつけながら流れる景色を追っていた。先ほどまでいたホームが視界から消えた。彼との思い出を整理するには時間がかかるけれど、私はここで生きていくことを決めたのだ、と改めて自分に言い聞かせた。本線と並走していた線路は、高架橋をくぐると大きく曲がりながら分かれて行く。それぞれの鉄路の先にあるものを想いながらその景色を眺めていた。「次は南陽市役所駅です」というアナウンスが流れた。
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