悲しいおせきのお話(4)

 その時、物かげからこの様子を見ていたおせきがかけよってきて、言いました。

 

「だんな様、わたしを人柱にしてください。おねがいです。人柱にしてください。」

「おせき、きゅうに何を言うのだ。そのようなことはゆるさん。」

 

「だんな様がみとめなくても、こぶしが原に身をなげて、神様におねがいするようにちかいを立てました。どうせ、死にゆくわたしでございます。どうか、一言おゆるしのお言葉をいただきとうございます。」

 

「おせき、お前は、それほどまでにわしらのことを・・・。おせき、お前の心、うれしく思うぞ。お前の命、決してむだにはしないぞ。」

 

「だんな様、おかみさん、長い間わたしをそだててくださってありがとうございました。このごおんは、一生わすれません。おふたりのしあわあせをあの世からおまもり申し上げます。それでは、さようなら。」

「おせきー。」

 

 おかみさんは、柱にすがってなきくずれました。源右エ門は、その場に立ったままなきました。 

2022.11.19:orada3:[  №1 悲しいおせきの話]