旬豆庵/山形の豆腐屋(仁藤商店)

▼とうふの絵本より

 わたしが小学校1年生か2年生のころ、夕暮れになべを持って、村の豆腐屋さんによくお使いに行きました。豆腐屋さんのおじさんは、油揚げ1枚、豆腐1丁とひのきの葉にはさんで、なべに入れてくれました。私はそのなべを大切にしっかり抱えて、夕げの支度をしている母に届けたものです。
 夕食のあたたかい味噌汁には、わかめと豆腐が入っていました。家族みんなで囲む食卓と豆腐の味噌汁のあのおいしさは忘れることができません。わたしの食の原風景だと思います。 
 むかしは歩いて、往復30分〜1時間くらいかかったと思います。豆腐屋さんの店の入口には、かます(わらむしろのふくろ)に入って塩が置いてあり、その下の桶にはなにか水のようなものが入っていました。今考えると、これこそが本物のにがり水だったのですね。むかしはゆったりとした時間の中で本物の食べものをいただいていたように思います。
 わたしたちの食生活は変わりました。ほしいものはなんでも、すぐ手に入る世の中です。食べものも、自分の好きなものはあれこれなんでも食べることができます。しかし、少食と個食の時代といわれ、食の伝統や地域の食べものは忘れがちになりました。また、自分たちが食べているものの60〜70パーセントは外国からの輸入品が占めるようになりました。なんとも情けない時代だと思います。
私は豆腐をつくって35年ほどになります。地元山形の大豆にこだわって、豆腐を作ってきました。伝統的な食の文化を絶やすことなく子や孫に伝えたい。毎日食べるものの採れるところや料理の方法、食べ方をぜひ見直したい。そして、緑豊かな地球の中の日本を自然を壊すことなく子供たちに手渡したい。私はひと粒の豆に願いを託したいと思います。



●2005.12.20
●仁藤 斉
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