メモ
■写真下:舞踏家・森繁哉氏(東北文化研究センター教授)によるパフォーマンス。『カフカ・掟の門』と題した即興的な舞踏を、坂田さんの彫刻作品の周りで踊りました。
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先週末の土曜日に『I'm here.2006』展のレセプションが開催され、午後2:00からのギャラリー・トークおよびダンスパフォーマンスのプログラムには、教職員、卒業生、在学生の他、仙台美術研究所の生徒さんたちなど、約150名の関係者が集まり、若いアーティストをとりまく環境について語り合いました。
内容の詳細は、追ってレポートいたします。取り急ぎ、写真のみUPしておきます。
■写真中上:学生ボランティアが見事に支えていた鈴木伸さんによる制作+インスタレーション。メディアテークでの設置は15時間を超え、筋力、集中力ともに臨界点ギリギリの設営作業の末、仕上がった作品は意外にクール&シャープな印象。詳細は会場でぜひご覧ください。
■写真中下:坂田啓一郎さんが細かな木組みによる彫像を組み立て中。今回は新作を含め、回転する人体のフォームを彫像化した木彫を6点出品した他、これらのイメージソースとなったスケッチやメモ、マケットなども併せて展示しました。
■写真下:小林和彦さんの映像は、これまでモニター展示が基本だったのですが、メディアテークでははじめてプロジェクターによる壁面投影を試みました。都市が有機的に脈動する様に目眩を覚える、魔術的な空間が出現しています。
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先週の22日[金]、せんだいメディアテークで、今年の『I'm here.』展がオープンしました。21日[木]には早朝くから、キャラバン隊よろしく総勢30名のスタッフが仙台入りし、設営をすませて山形に戻ってきたのは日付が変わる直前、というハードな状況は去年とまったく同じでした。
いくら事前に万全を期して準備しても、想定通りにならないのが展示作業の難しいところですが、身体は悲鳴を上げていても、アーティストとの共同作業で常に気持ちがワクワクしているから、苦にならないんですね。その分、撤収時の寂しさもまた格別ですが。
これまで沢山の展覧会の運営に関わってきて、つくづく思うことは、作品は「アトリエ」と「美術館」を往復移動しているだけで、展覧会とは、実に儚い、一時の仮構的な空間であるわけです。展示が終わった後、白い箱はまた空っぽに戻る。
アーティストも、キュレイターも、サポーターも、そのことは身にしみてよく知っている。だからその場/その関係でしか成立しないコミュニュケーションの流儀を必死になって構築して、人と作品と空間に、深く関わりたいと思うのですね。頑張れる。
その意味では、『I'm here.』の展示に携わった多くの学生ボランティアや、私たちのような裏方のスタッフこそが、参加した5人のアーティストから恩恵を受けているのかも知れません。まだ若い私たちの大学にとって、この経験が一人一人に刻み込むクリエイティブな作用は計り知れません。感謝。
宮本武典/美術館大学構想室学芸員
■写真下:作家泊まり込み一週間の成果の中、設営担当の構想室スタッフ・大谷さんが佇む…。搬入は1日仕事、頑張ってください!
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今年で2回目となる『I'm here.』展が、来週22日(金)からスタート。西展のためのカタログ執筆もままならぬほど、美術館大学構想室ではバタバタと細かい調整が続いています。特に今回は映像系の作家が多いため、液晶プロジェクタ−やモニターが大量に必要になり、大学内のいろいろなセクションへ挨拶回り+備品調達に余念がありません。こういうところは大学の利点ですね。
芸工大のスタジオ144では、出品作家の一人・鈴木伸さんの仕込みが連日続いています。鈴木さんは昨年工芸コースを卒業後、東京藝術大学大学院で学んでおり、現在は山形を離れているのですが、この夏は『I'm here.』展のために、こちらでカンズメ状態で頑張ってくれています。展示に掛けるモチベーションは半端ではありません。
最近はアパートの中でしこしこやってる、作品も思考も6畳スケールの若いアーティストばかりなので、こういうマッチョに身を削って作品に向かっていくタイプの作家は応援したくなります。
一昨日は搬入をサポートする学生スタッフを集めて打ち合わせ。今回、鈴木さんは10人の学生スタッフと共に、布と映像を使った大がかりなインスタレーションに挑みます。ご期待ください。
また、23日(土)のギャラリートークに、仙台でインディペンデントキュレーターとして活躍する山崎環さん(NPO法人リブリッジ代表理事)の飛び入り参加が決定!。こちらも熱くなりそうです。
では来週土曜日14:30、せんだいメディアテークでお待ちしています。
宮本武典/美術館大学構想室学芸員
■写真上:七日町の居酒屋『こまや』カウンターで。コケシ収集家の店主から提供された飾り物の小さな金精様(尾花沢産)を手にする西さん。
■写真中:上山の古道具屋で養蚕用の藁籠を7枚入手。これは展示会場造作の一部として使用する予定。
■写真下:制作する西さん。原型に塗布したシリコンラバーの上に、さらに石膏でバックアップ処理を施しているところ。
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週末に設定した休養日も、西さんは精力的に山形市内の古道具屋や蚤の市をひとまわり。夜は郷土料理屋でも飲みがてら情報収集をおこなっていたらしく、週明けの月曜日、西研究室は古い徳利から、陶製の二宮金次郎、コケシ、大根やホッケ(!?)など、大小さまざまなモノ・モノ・モノで溢れかえっていました。
その他、型取り材料として大量の粘土と石膏とシリコンも運び込まれ、アトリエでは収集した様々な「カタチ」の型取り作業が本格的にスタート。かなり手狭になってきた研究室で、西さんは息子さんよりずっと若いアシスタント達と会話を楽しみながら制作を続けています。
原型収集は予想以上の成果で、型取り作業はフル回転です。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
■写真中:西さんを囲んでの懇親会の様子。グラスには朝日町特産のワイン、テーブルの灯りは同じくこの地名産の蜜蝋燭。
■写真下:『あとりえマサト』代表の板垣さんは、本学日本画コースの出身で、学生時代から廃校でのワークショップに主体的に関わってきた。
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過疎と少子化のあおりを受け、惜しまれつつ10年前に廃校となった山形県朝日町の立木小学校に、芸工大の卒業生が中心となって運営されている共同スタジオ『あとりえマサト』があります。
東北芸術工科大学では、今年度から文部科学省の支援を受けて『芸術工房村構想』というプロジェクトを立ち上げました。これは、山形県内の廃校におけるアート制作や舞踏公演、ワークショップなどの活動を支援し、卒業後も山形に残り、廃校を舞台に風土と深く繋がりながら自らのアートを追求する『あとりえマサト』のような若者たちと一緒に、地域振興に取り組んでいこうというものです。
美術館大学構想室でも、自身の制作とともに、教室を改造したギャラリーを運営している彼らに提供する展示企画として、『西雅秋ー彫刻風土ー』展の巡回開催を提案し、先週、出品作家である西さんとともに、会場の下見に出かけました。
山形市内から寒河江方面に車を走らせ、緑濃い山並みと、集落をいくつも越え、くねくねした山道を進むこと1時間。清流をたたえた谷間の里に、モダンな木造校舎がつくねんと佇んでいました。
子どもたちの学びの痕跡を、そのがっしりした木肌のあちこち生々しく残す校舎の中を、『あとりえマサト』の板垣さん、田中さん、川勝さん、三浦さんの解説付きでじっくりと見学した西さんは、図工室の棚に残されていた山形の郷土玩具に注目。いくつかを、水上能舞台で発表する作品『彫刻風土』に立木小学校の「記憶のカタチ」を加えるべく収集しました。
日が暮れてからは、かつてこどもたちが裸足で駆け回った廊下に座布団を敷いて、ささやかな交流の酒宴がはじまります。30年前から飯能の山野を自力で拓き、家族を養いながら彫刻を作り続けてきた先輩の言葉は、冬は雪に閉ざされる山間で表現に生きることを決意した『あとりえマサト』の若いアーティストに、深く強く響いていたようです。皆とても穏やかな表情、良き語りの夜でした。
この企画は、西さんの人柄によって、当初の予想をはるかに越えて、人と土地の記憶を巻き込み、ひろがっています。
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帰り際、夜の校庭に出てみると、村の夜はもう秋の涼しさです。
空には星が恐いくらいキリリと輝き、生まれてはじめて見る天の川が、本当に「乳の河」のように、ぼんやりとたなびいていました。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
■写真中:『雅仙』さんの屋上で20年前に長谷川社長自らが制作したという弁財天を発見。彫刻風土のパーツとして提供してもらうことに。雨ざらしで胸部の損傷が激しいため、頭部のみを切り離し修復して使用します。
■写真下:『南工房』の南社長に銅町特有のるつぼ(金属を溶かすための容器)の運搬補助器具について説明を受けている西さん。鋳造家同士の話は、こと設備については尽きることがありません。「るつぼ」は、西作品の重要なモチーフです。
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28日から彫刻家・西雅秋氏が来校し、芸術研究棟116号室で滞在制作がスタートしています。
先週の金曜日には『彫刻風土への旅』と題し、制作をサポートするボランティアスタッフとともに山形県内の鋳物工房を訪ねてまわりました。
山形市は古くから鋳物が盛んで、市内を流れる馬見ヶ崎川沿いの銅町周辺には、茶道具や仏具などを手がける伝統ある鋳物屋が軒を連ねています。
今回の旅の目的はその倉庫を探索すること。
鋳物屋さんの倉庫には、過去にブロンズに鋳込まれた様々な造形物の原型(石膏や木製のもの)が捨てるわけにもいかず、引き取り手のないまま保管されてることが多いのです。
これらは地元のお寺に納める仏像や、著名人の胸像や、公園のモニュメントや、学校のエンブレムなどで、暗い倉庫には、土地の信仰や記憶にまつわる様々な造形が堆積しています。古い民家に掛けられている肖像写真、あの感じです。
西さんは厚い埃に覆われた倉庫の中をゆっくりと時間をかけて捜索し、仏頭や蓮弁、獅子のレリーフなどを、大学の能舞台に設置する予定の作品『彫刻風土』のパーツとして持ち帰りました。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
撮影/石川将士(東北芸術工科大学大学院1年)
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姉妹校の京都造形芸術大学が卒業生をフューチャーする展覧会シリーズ「混沌から踊り出す星たち」展レセプションに出席するため、久しぶりに東京へいってきました。
青山のスパイラルガーデンに展示された作品は、絵画や彫刻といった従来のアートのカテゴリーには収まらない、現代のハイブリッドなアートシーンを体現していて、それでいて関西っぽいというか、深遠さや重みを嫌うトンチの効いたアイデアと、職人的な技巧を凝らしたものが多かったです。
会期中のイベントも含め、展覧会のオーガナイズしているのは京都造形芸術大学ASP学科で、学生たちが授業の一環として運営に主体的に携わっています。
昨年もたいへん感心したのですが、彼らは、これくらいの展覧会はきちんとマネージメントできて、まだ学生然としたアーティストに、最高の舞台を用意していました。オープニングレセプションで、アーティストたちが大勢の観衆を前に、とても晴れやかに、堂々としていたのが印象的でした。
こういう雰囲気は、ただイベントプロモーターみたいに段取りをテクニカルにこなしていくだけではつくれません。運営サイドにアートやアーティストへの心からの敬意がなければ難しい。この思想的なモチベーションをしっかりと指導できているところに、ASPの後藤繁雄教授の手腕を感じました。
オープニングレセプションでは、後藤教授、評論家の市原堅太郎教授、アートディレクターの榎本了壱教授、そしてギャラリートークに招かれていた原田幸子氏に、芸工大の卒業生展『I'm here.』を出品作家の鈴木伸くんとPR。皆さんとても快い反応で、決まって「京都と山形で一緒に何かやろうよ」と言ってくださる。心強い。
一通り挨拶を終えると、パーティー会場を抜け出し、後は青山の賑やかなカフェで鈴木君と彼の制作をサポートしている石川君とともに、『I'm here.2006』の会場構成についてなど深夜まで打ち合わせ。眠らない街で、終電を気にしながらアートについて話すのも久しぶりでした。
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翌日の朝、帰りの新幹線は帰省するこども連れの家族で一杯です。福島を過ぎると、車窓には、眩しい日本の夏が流れていきました。
山形駅に着くと、改札口では『山形花笠踊り』の興奮がお出迎え。大混雑していた東京の人ごみのなかでエンターテイメントなアート作品を鑑賞し、普段は眠ったような私たちの街で、華やかで、力強い祭に出会う。
トランクを引いて、半ば駆け足で改札口に立つ出迎え人のもとへ向かう帰郷者に混じりながら、「一体、どっちが僕の求めているものだろう」と考えていました。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
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■写真下:右から大橋仁氏、宮本学芸員
2006年8月9日14:00-15:30/こども劇場 撮影:加藤芳彦
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夏の「TUADオープン・キャンパス」企画の一つとして、こども芸術教育研究センターで、写真家・大橋仁さんのギャラリートークが開催されました。僕も建築コースの公開コンペ審査の合間をぬって、インタヴュアーとして参加、写真集『いま』(青幻舎)についての対話およびスライドショーをおこないました。
トーク会場となったこども劇場の周囲には、一週間前から『いま』の写真の中から20点ほどが、大橋さん自身の手による構成で展示されていました。その中で、劇場の入口に掲げられた大延ばしのプリントが、出産シーンを真正面からとらえたショッキングな写真であったために、事務局の中には、こども芸大に通学する児童や保護者の反応を懸念する声もありました。こども劇場は、胎内とイメージした球形をしています。その入口(出口)に出産シーンの写真を高々と掲げるのが、大橋さんの意図するところだったのですが。
しかし、いざフタを開けてみると、こどもたちは「これ!赤ちゃんが生まれてくるところ!」と、いたって自然な反応。お母さん方は「生んでいる本人は見ることのできない瞬間なので驚きました。ウチの子もこんなふうに生まれてきたんだ…」、「出産はもっと奇麗なものだと思っていたのですが、こんなに壮絶な、命の切実さにみちた瞬間なのですね」等々、深いインパクトを受けたようです。
本学の徳山詳直理事長もご覧になり、ずいぶん長い時間、写真集に見入っておられ「感激した。〈こども芸術教育〉を掲げるなら、こういう視点をきちんと示さなければならない。京都造形大のこども芸大でもぜひ開催しよう!」とおっしゃっていました。
ギャラリートークには、展覧会を通して写真家・大橋仁の眼差しに惹かれた人々が集まり、写真家の言葉に耳を澄ませました。中には午前・午後の2回とも参加した学生も見受けられました。対話の冒頭では、インタヴュアーとして聞き役に徹しなければならない僕も、大橋さんに質問したいことが沢山あって、つい長々と私的な感想に夢中になってしまい、後で「7:3の割合でしゃべっていたよ」とトークを聞きに来ていた家内に指摘されてしまいました。私事ですが、僕たち夫婦も3月に第1子が誕生予定で、それだけに写真集『いま』の世界観は気になるところであったのです。
トークの話題の中心は、やはり分厚い写真集の3分の1を占め、克明に写し取られている出産の写真についてでした。
実際の分娩室は、母親やその家族は勿論のこと、医師、看護士など大勢の人がいるはずなのですが、写真にはそれらの人々の姿は登場しません。ただ取り上げられたばかりの青黒い赤ん坊が、生きているのか、死んでいるのかもわからないような命の境界点で人々の手に抱かれ、写真家の眼差しと向き合っています。大橋さんはこの点について「ある特定の個人の物語のように撮りたくはなかった。ただ生物としてのヒトの誕生の瞬間を写したかった」と語っていました。
前作『目の前のつづき』で、自らの家族の死と再生の記録を淡々と撮影し、荒木経惟に続く「私写真」の旗手としてデビューした大橋さん。
2作目となる『いま』では、あえて個人的な被写体を排除し、「出産」という誰もが経験したダイナミックな命の瞬きをテーマに選ぶことで、その眼差しは、見る側の記憶とリンクしていきます。
スクリーンに次々と投影されるスライドを見ながら、僕は大橋さんに「この赤ん坊は、かつての大橋さんであり、僕でもある気がします」と話していました。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
※トークの内容は、こども芸術教育研究センターの紀要に後日まとめられるそうなので、その時にまたお知らせします。
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先日、教育改善活動(FD)プログラムの一環として教職員対象に開催された「少子化時代の大学運営」に関する講演を拝聴しました。講師は武蔵野美術大学の小井土満教授です。実は学生の頃、僕は教職課程で小井土先生のお世話になったのです。合評会でのコメントが抜群に面白いのと、研究室でコーヒー生豆を焙煎する(!)ことで有名な方でした。講義前に挨拶に行って「おー意外なところで会うねぇ」とがっちり握手、かれこれ10年ぶりの再会です。僕が教育機関で働いていることを、とても喜んでくださりました。
講演会では、80年代末から今日に至るまでの少子化の推移と、それに対応した武蔵美の学科編成およびカリキュラム改革の詳細について語られました。伝統あるかの大学でさえ教職員が一丸となって、少子化対策に年間100を超える会議を繰り返していると聞き、ちょっと驚きました。美大に限らず「全入学時代」(=大学進学を希望する高校生が「選り好み」さえしなければ、必ずどこかの大学に入学できるという時代)を目前に控え、全国の大学が熾烈な受験生獲得競争を繰り広げているのです。
東北では、私立大学の7割が、既に定員割れを起こしているそうです。幸い芸工大は入試課スタッフの営業努力もあり、まだ沢山の受験生のみなさんに支持されていますが、その絶対数は減っていく一方。しかも早稲田や立命館といった名門の総合大学が、美術学科の新設に着手していくという状況下にあって、本学のみならず、30年後も盤石な芸術系大学は殆どない、というのが偽らざる実情ではないでしょうか。国公立大学であっても、独立法人化を受けて、これまでのような安定とは無縁です。テレビタレントを教授にしたり、個性的な学科を新設したりと、美大生予備軍に向けたアピールに余念がありません。
高校生の理解レベルに「大学」運営の基準を合わせてしまうのもいかがなものかと思います。しかし、だからといって専門性の聖域に閉じこもっていてはどうにもなりません。情報化社会において、目まぐるしく変化する時代のニーズに呼応するセンスを身につけなければ、学内の研究・制作活動を保証する大学の経営そのものが傾いてしまうのですから・・・大学関係者には難しい時代ですね。
小井土先生は、魅力的なアトラクションをずらりと並べた大学のアミューズメント・パーク化を踏まえて、「全入学時代において、4年間の学部時代よりも、その次の段階の〈大学院・博士課程〉での学びが、これまでの〈大学〉に相当する高等専門教育に該当するでしょう」とおっしゃっていました。なるほど。学部の4年間が、ほぼ高校の延長上にあるのならば、受験生向けの「大学」広告と、制作・研究活動の高度化を並走させる鍵は、大学院教育の充実にかかっている、ということです。
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上の写真は本学大学院の授業風景です。「大学院レヴュー」といって、院生たちが、日頃の制作・研究の成果を学内各所にコンセプトシートとともに展示し、3日間にわたって、順次作品の前でのプレゼンをおこなっているのです。指導教官が進行役を務め、作者による10分程度のプレゼンの後、様々な学科コースの教授が、自由なスタンスで批評をしていきます。勿論、学生同士でも意見交換は活発におこなわれています。
はじめてレヴューに参加したとき「自分が院生だった頃にこんな機会があったらどんなによかったろう!」と思いました。コース内の講評会では、同じ領域だからこそ理解し合える微妙な差異にまつわる指摘に終始しがちで、クリエイションへの根本的な姿勢を問われたり、他メディアへの展開の可能性についてアドバイスをもらえる機会はあまりありませんから。
また、プレゼンには院生だけでなく他学年の学生たちが多く聴講しています。それはこの会が、蛸壺化しがちなアトリエ中心の生活において、自分のポジションを客観的に見極めることのできる、ある種の「モノサシ」のように作用しているからだと思います。
僕が受けた大学教育(油絵)は徹底的な放任主義でした。「どうせ100人中アーティストとしてやっていけるのは1人でるかでないかの世界だから」を常套句に、教授はほとんど何も語りませんでした。学外に出るしかない僕たち学生は、作品ファイルをギャラリストに売り込んだり、在野の批評家筋と交流したりして、かえって鍛えられはしましたが、やっぱり「大学院レヴュー」のように、大学がきちんとした批評の場を設定し、教員がまとまって指導している光景は羨ましく思います。
それぞれの専門領域における経験値を根拠にしながら、現代社会におけるアートやデザインのあり方を議論する知的な関係ないしは空間。大学院レヴューの真剣な集いのかたちに、「大学」本来の魅力を感じました。
全入学時代は大学にとって冬の時代には違いありませんが、日本の「大学」や「美術教育」の質を高め、存在価値を再構築する、いい契機なのかも知れません。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
コメント:「気溝には落ちこんで行く。そして気柱が舟と流されながら鬼(鬼瓦)までも突き上げる。外の展示こんなイメージです」西雅秋
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先に開催した西雅秋氏の特別講演でも周知した通り、この夏、現代美術家の西雅秋氏が本学に滞在し、山形をテーマにした大規模な現地制作に着手します。今回紹介したのは、西さんから届いたばかりの作品プランのスケッチです。
このスケッチによると、全長7メートルの最上川の川舟(木製)を能舞台に移設し、その中に山形県内の鋳物屋から収集した仏頭を中心に、山形を象徴する「かたち」を石膏で鋳抜いたものを大量に積み上げていくという、実に壮大なインスタレーションが示されています。
美術館大学構想室では、この夏期休業期間を利用し、スケッチに示された作品を西さんと一緒に制作してくれる学生スタッフを大募集しています。これは単なる「お手伝い」ではなく、西雅秋というアーティストと、参加者とのコラボレーションによるアート・プロジェクトであると認識ください。
サポートの詳細は以下の通りです。
□西雅秋滞在期間:8月28日(月)〜9月9日(金)約2週間
□活動内容:山形を象徴する「かたち」のリサーチ+収集
シリコン・石膏による型取り+鋳込み作業
□活動場所:研究棟116号室・西雅秋特設工房
*事前説明会を8月3日17:30〜図書館の学習室(1F奥の小部屋)でおこないます。皆様お誘い合わせの上、ぜひご参集ください。
連絡先/美術館大学構想室学芸員・宮本武典
miyamoto@aga.tuad.ac.jp/023-627-2043
2006年7月24[月]ー8月10日[木]
こども芸術教育研究センター・ギャラリー
10:00ー17:00 休館日/7.30[日]、8.5[土]
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昨年末にこども芸術教育研究センターから、「こどもをテーマにした写真展を開きたいので、いい写真家を紹介して欲しい」とリクエストを受け、かねてより強く心を惹かれていた写真集『いま』(青幻社)の著者・大橋仁さんのお名前を伝えたところ、なんと、現実に個展が実現しました。今日から、こども芸術教育研究センターで開催しています。
大橋さんのデビュー作『目の前のつづき』は、親族の自殺未遂をドキュメントした写真集で、渋谷のパルコブックセンターで初めて手にした時、その圧倒的な現実感に、冷ややかな狂気を感じました。アラーキーが帯に「凄絶ナリ。A」との筆書きコメントを寄せていたのも印象深かった。
その、日常の中の死の予感を凝視した前作から一転して、出産の光景を通して、生まれてくる命をまっすぐに写した『いま』。展示は、大橋さん自身がギャラリー空間に合ういくつかのイメージを写真集から抽出したのですが、胎内をイメージして設計された楕円形の「こども劇場」とは、とても象徴的に絡みあって、忘れ難い印象を残します。
展示室のはじめには出産シーンを真正面からとらえた大判のプリントが掛けられていて衝撃的。それから林立する都市や、夜の小動物、カーテンの揺らめきを経て、再び羊水のイメージへ・・・。一点一点の意味を追うのではなく、彼岸と河岸を透過する、眩しい映像の叙事詩のような光の揺れが、静かに胸に迫ってくる展覧会です。
8月6日[日]には大橋氏が来学。私、宮本と「いま」展の会場でギャラリー・トークをおこないます。11:00-と14:00-の2回です。ぜひご来場ください。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
(2006年6月29日17:30〜19:30/加藤芳彦撮影)
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29日の西氏の特別講義は、「彫刻とは何か?」そして「自分自身が生きてここに在るとは?」との問いから照射するように、自らの作品群に解説するかたちで進められました。
それから、自身のアイデンティティー(および作品)に深く根ざしているという、広島の原爆と戦後の暮らしの記憶のこと。また、世界各地に埋めてきたという銅板によって、いつもつながっていたいと願う、その土地の名もない人々の暮らしについて。
そこには飯能の山で、制作活動を軸に、世界と自然の声に耳を傾けながら、この混沌とした時代にあって「まっとうに生きる」ことを愚直に追求し続ける彫刻家の姿がありました。
終了後、客とアルバイトスタッフが、皆この大学の関係者という飲み屋で、僕も学生たちも、将来への不安に駆り立てられるように、また自ら回答の留保をタナに上げて、ついついゲイジュツから恋まで、「西さん、西さん。何が大切ですか。何が無駄ですか」と、生きることの一から百まで、問いかけていました。すると「そんなに質問ばかりしていちゃあ、駄目だよ。問う前につくれ」と返されて、一同、心地よい沈黙・・・。
講義の最後に、「自分が学生だった頃、こうして大学に話しに来てくれた先生が、最近どんどん亡くなっている。君らもあと何十年かしたら、新聞の活字で、西雅秋の死を知るだろうな。これらの金属の塊(作品を指して)も、土に埋めて、時や自然のなかに溶解してしまえばいいと思ってる」と語っていた西さん。
けれども、学生たちに囲まれた和やかな酒席でだけは、「この瞬間に乾杯」とボソッと呟いて、コップを掲げていました。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
※秋に本学で開催される西氏の個展タイトル『西雅秋-DEATH MACTH2006-(仮称)』を、今回の特別講義から『西雅秋 -彫刻風土-』に改題します。
左から、和太教授(陶芸)、降旗教授(プロダクト)、尾崎くん(竹内研の院生)、酒井さん(構想室スタッフ)、加藤事務長(構想室)、竹内助教授(建築)、宮本学芸員(構想室)、佐々木講師(陶芸)、小林教授(漆芸)、金子助教授(金工)、水上助教授(漆芸)
■写真下:内覧会直前の会場風景
佐々木理知作品ブースから金子透ブース(右奥)と降旗英史ブース(中央奥)を眺める
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前回に引き続き『作座考-BANDED BLUE2・東北芸術工科大学の7作家-』展の様子をお伝えします。
写真は内覧会直前に展示作業を終え、ホッとした関係者一同。
囲んでいるのは、畳代にエンコ板を張った、竹内助教授デザインの特注台で、出品作家がそれぞれに自作の茶道具を持ち寄り展示しました。
なお、ここには写っていませんが、鶴岡側の学芸部のお2人・那須孝幸さん、山岸早苗さんをはじめ、アートフォーラムの皆さんのきめ細やかなサポートをいただきました。
山岸さんは本学美術史・文化財保存修復学科の卒業生です。
上下とも法人本部の中嶋健治さんの撮影。
■写真下:金子透による鍛造の手桶には小原流によりオーガスタのドライフラワーが生けられた。
24日土曜日、鶴岡アートフォーラムで、工芸コース教員の作品を中心にした作品展『作座考-BANDED BLUE2-』がオープンしました。
私宮本が企画コーディネートを手がけた本展では、「座」をキーワードに、陶芸・金工・漆芸・木工の各領域を、茶室に見立てたヒューマンスケールのブースに点在、干渉させる空間構成を試みました。
会場造作の設計を建築家集団「みかんぐみ」の竹内昌義助教授にお願いし、本学教授陣の花器に小原流師範・三橋光彩氏が生け込みをおこなうという贅沢な展観は、古き良き伝統文化が息づく城下町・鶴岡のつつましい佇まいに、上質な現代性・先鋭性を加えることに成功したと自負しています。
また、会場には、各参加作家が制作した茶道具を組み合わせた「茶室」のコラボレーションや、制作行程を紹介する映像インスタレーションなどもあり、現代工芸の多様な可能性を示すものとなっています。
山形からはまだ雪を冠った月山を越え、約2時間の道のりとなりますが、ぜひ足を運んでみてください。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
■写真中:山形で収集した石膏のモチーフに、作家の工房周辺で丹精された野菜の型も加えられ、作品「彫刻風土」の解釈は、西さんの飯能での生活も抱き込んでひろがっています。
■写真下:彫刻・建築・洋画・日本画・工芸・美文etc...様々なコースから集まった15人の学生チームが、揃いのツナギで制作に参加しました。
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雨の大学祭の真最中、悪天候にかえってハイ・テンションな賑わいを見せたキャンパスの一隅で、西雅秋さんの滞在制作が進められました。
9月の滞在時に制作した大小50個ほどの型に石膏を流し込んでいきます。スタッフ一同、作業のコツと流れを把握するとともに、効率アップを目指して増殖していく生産ラインは、当初予定していた2つの研究室ではとても間に合わず、廊下にまではみだしていきました。
10月28日の夕刻、完成したこれらの集積のまわりで舞踏『時の溯上』を披露する予定の森繁哉さんは、この現場を「焼き場の骨ひろい」と形容し、西さんは、透き通るように薄く鋳抜かれた石膏の野菜を「食べるために並べる」と言って学生たちを惑わします。
和気あいあいと進められた夏の型作りに比べて、不思議な緊張感が張りつめていた鋳込み作業の3日間は、石膏に写し取られた「食」や「性」の断片から、脆くはかない命の営みを抽出する行為のように思われました。鋳抜き作業場は29日から朝日町の廃校へと場所を移し、オープンスタジオとしてその行程の全てを一般に公開されます。
旧立木小学校でのプロジェクトは、建築学科の有志学生と西さんの共同作業として進められ、廃校に残された、かつてここで学んだ子どもたちの記憶を留める様々な品々とともに、即興的に構成・展示されていく予定です。
宮本武典/美術館大学構想室学芸員