美術館大学構想

(※写真をクリックすると拡大画面で見られます)
■写真上:ギャラリー絵遊で松岡圭介作品『a standing man』を鑑賞するグラフィックコース准教授の坂東慶一先生とアートライターの白坂ゆりさん。
■写真中:馬見ヶ崎川沿いのカフェで観客参加型のインスタレーション『1984-espresso』を鑑賞。制作した大学院生たちとの対話。
■写真下:7月8日に蔵を改造したカフェ『灯蔵 オビハチ』で開催された2人よるレクチャー『仕事はつくるもの』。立ち見が出るほど大勢の学生が詰めかけた。スクリーンに映し出されているのは、白坂さんがいまもっとも注目している作家の一人、ベルリン在住のアーティスト小金沢健人氏の作品。
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山形市内で開催した『I'm here.07-根の街へ-』に、ゲストとしてお招きしたアートライターの白坂ゆりさんが、トータルアートサイト『LOAPS』の連載コラムにて、本展の様子を紹介してくださいました。

『白坂ゆり トウキョウアートリズム』=http://www.loaps.com/art+index.id+hp.htm

坂東慶一准教授との対談『仕事はつくるもの』では、白坂さんが情報誌『ぴあ』のライターとして、90年代から今日まで、「観て・書いて・立ち合って」きたアート発生の現場を、豊富な写真資料とともに証言してくださいました。

また、ロンドン、アムステルダムと欧州を拠点にデザイナーとして活動してきた坂東准教授は、日本のオルタナスペースの草分け『スタジオ食堂』での自らの実践を示しつつ、自治体や企業の助成を得ながら、地域住民と連携して展開した伝説的な『スタ食』のクリエイティブなコミュニケーション・スキルについて丁寧にレクチャーしてくださいました。

2007現在。日本の有力ギャラリーはグローバルなビジネスに乗り出し、所属アーティストのマネジメントや、若手の発掘に意欲的です。美大の卒業制作展に多くのギャラリストたちが訪れるようになり、フレッシュな才能が銀座の貸画廊システムを飛び越してチャンスをつかんでいます。
アーティスト側にも、こうした市場のニーズからこぼれ落ちないように、積極的に売り込んでいくセルフ・プロデュース能力が問われています。

後半、会場からの質問を交えたディスカッションは、昨今見られるようになったギャラリーやメディア、時には大学が連携して「今、売れる作家」を量産していくシステムのあり方や、ギャラリストと作家との複雑な駆け引きについてなど、アート業界のリアルな体験談で盛り上がりましたが、最後の締くくりの白坂さんの発言が良かった。

「今、アートシーンで何が起こっているのかを知ることは大切ですが、どのギャラリーが有力だとか、欧州のトレンドがどうこうといった〈情報〉に、アーティストの作品や制作は左右されるべきではないと思います。アート作品自体の魅力も同様に。」

90年代とは明らかに異なる「実感なき好景気」の中で、ビックメゾンや広告業界を巻き込んで流通していくアートマネーの恩恵。これらを、ただ盲目的に甘受しようとするのではなく、現実の生活を取り巻く様々な環境と、内省的な制作活動の幸福な一致のために、インディペンデントに生きていく術を模索する…。

途中、白坂さんが紹介してくれた、東京のネオンサインをモチーフにしたベルリン在住のアーティスト・小金沢健人氏のユーモアかつリリカルな映像は、日常にありふれた現象を、視線や解釈のズレによって、説明しようがない心地よい調和へと変換していました。
あの映像のアノニマスな美しさは、「アーティストとしての成功」だけを求めて制作していく態度とは根本的にベクトルの異なる眼差しでもって、アートへの真摯で純粋な「trial and error(試行錯誤)」を、若いアーティストたちに求めたいとする、この日のレクチャーに臨んだ2人のポリシーが端的に表現されていたように思います。

美術館大学構想室学芸員/宮本武典


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