美術館大学構想

いつも図書館から借りていく本のセンスが秀逸だった阿部君の、これが指で描いた油絵。
重ねても重ねても濁らない色彩からは、盲目的に色彩と戯れるドローイング・ハイの高揚と、慎重にタッチを律する理論性が混在し、高い完成度に達している。
やったぜ。

阿部君は、絵画の経験を相対化する為に、普段から様々なジャンルから的確な要素を選びとれる人だった。
何よりも、それが決定的に強い。
例えば、去年の秋に開催した『珍しいキノコ舞踊団』のレジテンスでも、すべての公開練習、公演に立ちあって、ダンサーたちの動きから、絵画制作のヒントを見つけようとしていた。

けれども、そのタッチの集積が向かうフォルムについては、あくまで保留のまま。絵画の恐ろしいところは「迷い」がそのまま定着して、絵としては「完成」してしまうことだ。
自分自身の皮膚のように、日常生活に貼り付いた(時々は切ったら血が滴る)阿部君の「塗り」は、これからの彼の人生に纏わりつくのだろう。

ライフ・ワークの誕生ということ。

宮本武典(美術館大学構想室学芸員)
2006.02.16:miyamoto:[メモ/展評]


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