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【勝ったことさえ分からない勝ち】−2011.10.5
吉川英治氏の三国志を夢中で読んで以来、10年ぶりに、宮城谷昌光氏の三国志を読んでいます。三国志演義に登場する人物は1192人とかいいますので、宮城谷氏の三国志にも1000人以上が登場すると思います。地図と人脈系統図を片手に読まないとちんぷんかんぷんで面白くありません。周囲にいる大抵の人物はそのどれからに当てはまるぐらい人物がたくさん出てきます。
紀元180年〜280年にかけての中国の漢王朝の衰退と三国(魏・蜀・呉)の興亡の中で、合従連衡という名の裏切りと騙し合いと殺戮を勝ち残った英雄の物語です。史書をもとに描かれているため、大半は事実でしょうが、中には日本人の想像力を超える残虐な描写もたくさんあり、想像するだけで吐き気を催すときがありますが、次から次に変化に富んだ状況に対応する英雄の思考と行動はワクワクするほど面白いです。
第4巻を読んでいた時、心に残った言葉があります。宮城谷氏が劉備玄徳に言わせている言葉です。今日の友は明日の敵、今日の敵は明日の友、と人間関係が利害関係とともに入り乱れて、親族以外はだれも信用できない、場合によっては親族さえ信頼できない。誰が敵で、なぜ戦うのかも判然としない群雄割拠の戦国時代、劉備玄徳(のちの蜀王)がまだ勢力が小さかったころ、陶謙に加担して曹操(のちの魏王)と戦う場面で、玄徳は「真の勝ちとは勝ったことさえ分からぬ勝ちである」といってのけます。敵と味方、善と悪、正と邪、上下強弱のような二元論ではやってゆけない世界だからこそ、縦横無尽、融通無碍、バカか賢いのかわからないつかみどころのない劉備玄徳のような人物が生き残ったのでしょう。
劉備玄徳のいう「真の勝ちとは勝ったことさえ分からぬ勝ちである」とは、まさに、現在にも通用する考え方だと思います。「気が付いたら、市場に浸透していて圧倒的なシェアをとっていた」ような戦い方だと言えます。
宣戦布告して強引な力技を利かせるのではなく、ライバルからは相手にされず、反発されず、しかし、マニアユーザーからは我先に求めるような形で、深く静かに浸透し、気がつくと皆の生活の中に無くてはならない存在になっているやり方は何と素晴らしいのでしょうか。
例えば、パソコンのOSを開発したマイクロソフトやアップルのアイフォンに代表されるスマホ、ダイソーの100円ショップのように。
今のような世界恐前夜と言ってもおかしくないカオスの時代には最適の経営思想だと思います。まるで海流にゆらめく海藻のように芯も茎もあるけれど、岩にしっかりと定着し、自由自在に揺らめいているようなものです。経営にもこのような柔軟性が必須の時代にあると思います。
2011.10.05:
目加田博史
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