目加田経営事務所
▼【ぶれない信念】
どのような組織であれ、トップは孤独です。トップといえども人の子ですから、日頃は厚顔無恥で心臓に毛が生えているのではと陰口をたたかれるほど強面の人でも、体調に不安があったり、家族に不和があったり、業績に不調があると、弱気になるものです。ひどい時は強気と弱気が日替わりで顔に出ることもあります。
ある顧問先が、自社の商品を普及してゆくために、拡大路線に舵を切り、時間をかけて計画を温め、全社員を巻き込んで社内体制を整備してきました。分散していた生産拠点を集約して、手狭になった本社工場を移転拡張して、経営資源を集中することにより経営効率を抜本的に改善する計画だったのです。
分散化によるひずみや経営効率のまずさが散見されだしていましたので、時機を得た計画だと言えます。幸いにも自己資本比率も高く、無借金経営を継続していたため、計画により財務バランスの悪化することは想定内で、数年のうちに今まで以上に強い体質になることはかなり高い確率で信頼性がありました。
計画に従って、各地の生産拠点を撤退するための手続きに入り、着々と進行していたのですが、突然、方針転換して、移転はしないことになったのです。投資額が大きいため、相当なリスクもあります。トップ自身の体調不安もあり、タイミングが悪いのではないかと思ったトップは友人知人だけでなく神さんにまで相談に行ったのです。ことごとく、否定的な見解を得たトップは、計画中止を宣言したのです。すでに動き出している拠点はたまったものではありませんが、トップの決断は尊重されなければなりません。計画実行にあたり関与していただいた関係先、とくに金融機関には丁寧に説明をして、了解をいただいた経緯があります。
この一件以来、社内のコミュニケーションや信頼関係は微妙に変化し、もろくなってしまいました。仕事に熱がこもらなくなり、粘りがなくなってきたのです。
事をなそうとすると、必ず壁が立ちはだかります。その壁は「やめなさい」という天の声の場合もあり、本気度を試すリトマス試験紙の役割をしている場合もあります。ほとんどの場合は後者です。信念を試されているのです。「お前の本気度はどの程度なんだ?」と問われるのです。第一の壁が破れても、第二の壁が現れ、第三の壁が現れます。第三の壁を突破すれば合格です。あとは驚くほど順調に事が進展します。
「自ら省みて直くんば、一千万人といえども我ゆかん」論語の孟子 公孫丑にある言葉です。自分を振り返ってみて、間違いがないと思ったならば、たとえ反対者が1千万人いても、たった一人でも自分の信じた道を行くべきだという意味です。
ぶれるトップは組織を潰してしまいます。組織に頼らず天涯孤独にたった一人で事を成し遂げられる様な天才は別にして、一般的には何らかの組織を使って事を成し遂げます。
強い組織に鍛え上げるには、トップはぶれてはいけません。ぶれそうになれば、信頼できる第3者に話を聞いてもらい、その原因を探しましょう。トップが権力でぶれを正当化してしまう前に。
2012.06.15:目加田博史
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