魂の贈り物

  • 魂の贈り物

 

 気持ちが落ち込んでいる時、まるで心の内を見透かすようなタイミングで、その人は”言(こと)の葉(は)”を届けてくれる。今回のそれは批評家で随筆家である若松英輔さんの詩集『たましいの世話』―。「先に逝ってしまった大切なあなたへ」と帯にある。ペ-ジをめくると、「いのち ひとつ」と題する詩が目に飛び込んでくる。こんな詩である。

 

亡くなったのは

わたしが愛した

あの人で

千人の中の一人ではないのです

 

もう 抱き合えない

あの人は

街を歩く 千人を

どんなに探しても

見つかりません

 

亡くなった人が

多いとか

少ないとか

そうした

話しの奥には いつも

 

たった ひとつの

いのちを喪った

わたしのような

人間がいるのを

忘れないで下さい

 

 「約束」「悲しい人」「はげまし」「しあわせのあかし」「慰めの方法」「別れ」「なぐさめの真珠」「透明な釘」…。こんなタイトルの詩編が34、並んでいる。たとえば、亡き妻が好きだったヨハン・パッヘルベルの「カノン」の旋律をそのひとつひとつに重ねてみる。「生きる」ということの意味を底支えしてくれる、かけがえのない時間である。

 

 

 

(写真は生前の妻が片時も離さなかったCD。若松さんの詩編にすう~っと、溶けこんでいくよう)

 

 

2021.04.21:masuko:[ヒカリノミチ通信について]

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