米軍基地と秘められし祝祭

  • 米軍基地と秘められし祝祭

 まるで対(つい)をなすような長編小説と写真集が相次いで刊行された。寡(か)作で知られる作家の宮内勝典さん(72)の『永遠の道は曲りくねる』(河出書房新社)と、アメリカ先住民研究の第一人者で亜細亜大学准教授の鎌田遵(じゅん=44)さんの写真集『アメリカ先住民―記憶を未来につむぐ民』(論創社)である。極小から極大へ、原始の始まりから宇宙の果てまで…。約20年前の大作『ぼくは始祖鳥になりたい』がそうであったように、“宮内ワ-ルド”にはいつもアメリカ先住民(インディアン)が重要な立ち位置として登場する。一方の鎌田さんの写真集は25年間にわたって、アメリカ先住民に寄り添い続けてきた記録の集大成である。この二つの力作に挟まれながら、まったき真理を追い求める道行きに同行する醍醐味を味わった。

 『永遠の…』の舞台は文中でそうとは特定されていないが、どうも米軍普天間飛行場の移転先とされている沖縄県名護市の米軍キャンプ・シュワブ界隈である。「60年安保」闘争時、全学連のリ-ダ-だった精神科医はその敗北の贖罪(しょくざい)観から当地に居を移し、沖縄戦で心が傷ついた人たちの治療に専念してきた。付っきりでアシスタント役を務めるのは「乙姫さま」と呼ばれるユタ(霊能者)の教祖である。世界中を放浪してきた32歳の男「有馬」がある縁で病院の下働きをするようになる。アメリカ人とアジア人の血が流れる「アメラジアン」と呼ばれる人たち、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ帰還米兵…。

 乙姫さまによると、米軍基地の地下には沖縄特有のガマ(洞窟)が縦横に張り巡らされ、基地の内と外とを結ぶ秘密の通路があるらしい。有馬が知り合いのアメラジアンの案内で暗闇を突き進むと、やがてぽっかりと頭上が明るくなった。ある時、基地内の病院に収容されているPTSD患者の元女性米兵「ジェ-ン」がこの道を逆にたどりながら、こっちにやってきた。アフガンかイラクからの帰還兵なのだろうか。心の病は相当に深い。乙姫さまが怯(おび)えたようなジェ-ンをやさしく抱きしめる。ジェ-ンはその腕の中に眠ったように身を委ねる。「この女性にはインディアンの血が流れている」―。インディアン保留地での生活体験がある有馬はそう、直感する。

 「あとからやってきた白人たちによって、絶滅の危機にまで追いやられてきた民族を記録しつづけてほしい」―。鎌田さんは1千時間にも及ぶインタビュ-をこなし、その受難史をカメラに収めてきた。その一人、ヤカマ族の環境運動家は写真集の中でこう語っている。「人類は力をあわせて、ひとつの地球を守ることが第一優先です。ある特定の人たちだけが逃げられるような抜け道はないのです」。民族衣装に身を固めた写真の数々が見る側の想像力を刺激する。そこには聖なる宇宙が際限なく広がっている。宮内さんの筆致も宇宙全体を包み込むようなスケ-ルでぐいぐいと進んでいく。圧巻は祝祭の開催である。

 世界各地の先住民の「グランマザ-」(おばあさん)たち13人が集結し、平和を希求する祭典―「平和の松明」(たいまつ)が基地の真下に位置するガマの中で開かれた。「山も川も、草も木も、石ころ一つまで…すべて先住民のものでしたが、丸ごと乗っ取られてしまいました。その盗んだ大地に建国されたのがアメリカ合衆国なのです。この国、ジャパンでも先住民たちが虐殺されて、北のほうに追いつめられているそうですね。リュ-キュ-島も同じかもしれません」。鍾乳洞のような暗河(くらごう)の空間にシャ-マンたちの呪詛(じゅそ)のような声が反響する。

 作家はガンを患い、余命わずかな精神科医に“遺言”のような言葉を語らせている。「わしも無神論者だが、アニミズムは信じる。知性というやつは、むやみに上昇して抽象へ向かう。一神教へ向かっていく。だが地中深く根を張っているのは、やはりアニミズムだ。だからわたしは知性を逆に使って、あえてアニミズムに踏みとどまるつもりだ」。その一方で、やがてジェ-ンと結婚することになる有馬はこう記している。「北米大陸の先住民と、この島の人たちには共通しているものがある。水脈のようなものが通底しているような気がする。この島には不思議な高貴さがある。ここは死ぬに値(あたい)する土地だと思う」

 「辺野古」新基地建設に抗して座り込みを続けるおばあたちの姿がふと、眼前に立ち現れ、ガマに集うグランマザ-たちと重なった。みんな沖縄戦とその後を襲った米軍基地の受苦を記憶に刻む老いた女性たちである。そう、この島のおばあたちこそが未来の平和を託宣する「乙姫さん」にちがいない。はるかかなたに「ニライカナイ」(理想郷)の島影を見たような気がした。そこにはきっと、生命(いのち)の泉がこんこんと湧き出ているはずである。

(写真は互いに呼応したかのようにして出版された宮内さんと鎌田さんの小説と写真集)

≪追記≫
 鎌田さんは同じ出版社から写真集『アメリカ マイノリティの輝き』を同時出版した。大都会に生きる移民やホ-ムレス、LGBT(性的少数者)、日系人強制収容所の記憶など少数者の多声(ポリフォニ-)が共鳴する多民族社会・アメリカが見事に切り取られている。


2017.07.13:masuko:[身辺報告]

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