カラスと賢治と憲法9条

  • カラスと賢治と憲法9条

 「直球1本やりのあんたにしちゃ、珍しいじゃないか」とからかわれた。3月定例会の一般質問で「カラス対策」を取り上げた件についてである。行き付けの理髪店でばったり、出会った知人が苦りきっ表情で話した。「カラスが大変なんだよ。この辺の小中学生は糞(ふん)を避けるため、傘をさして歩いている。ス-パ-にはカラスによる『置き引き』注意の張り紙もある。どうにかならないかねえ」。ヒゲを当たっていた当主が「そうなんだよ。これこの通り、撃退用のピストルを常に用意しておかなくちゃね。でも、やつらは頭がいいから…」と応じた。

 神武天皇の道案内をしたという八咫烏(ヤタガラス)の神話を知っている程度で、わが家の周辺には姿を見せることも少なく、これまで余り興味を引く対象ではなかった。しかし、その生態や伝承を調べているうちにはまってしまった。カラスはフランスの伝統料理の食材として珍重されたほか、日本にも「カラス田楽」(長野県)や田植えの時期を占う「カラス勧請」などの伝統行事があったことも知った。そういえば、ジブリアニメの「魔女の宅急便」や「猫の恩返し」などでも欠かせないキャラクタ—である。しかし、私のねらいはカラスにかこつけて、「賢治論」を展開することだった。

 宮沢賢治の童話のひとつに『烏の北斗七星』と題する短篇があり、こんな一節がある。「あゝ、マヂエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいゝやうに早くこの世界がなりますやうに、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまひません」(原文から)―。カラスと山鳥との戦いを描写した作品で、鳥(とり)たちに託して戦争の残酷さを訴えた内容になっている。「マヂエル」(北斗七星)はカラスの守り神という設定である。

 この童話が特攻隊員として、沖縄戦で戦死した元戦没学徒の遺書に引用されていることは余り知られていない。昭和20年4月14日、当時、22歳だった東大生の佐々木八郎さんは「“愛”と“戦”と“死”―宮沢賢治作『烏の北斗七星』に関連して」という書置きを残している。「僕の気持ちはもっとヒュ—マニスティクなもの、宮沢賢治の烏と同じようなものなのだ。憎まないでいいものを憎みたくない、そんな気持ちなのだ」(『新版 きけ/わだつみの声』)―。今まさに死に赴(おもむ)こうとしている若者の胸中を去来したのが、賢治の童話だったことに胸を突かれる思いがする。「反戦平和」と「憲法9条」の生みの親に擬せられるのもムベなることである。

 『憲法9条を世界遺産に』(太田光×中沢新一、2006年刊)と題する本がある。お笑い芸人の太田と人類学者の中沢との対談集で、冒頭を飾る第1章は「宮沢賢治と日本国憲法―その矛盾をはらんだ平和思想」というタイトルである。中沢はこう語る。「憲法の問題を考えるとき、宮沢賢治は最大のキ-パ-ソンです。平和とそれがはらんでいる矛盾について、あれほど矛盾に満ちた場所に立って考え抜こうとしていた人はいませんからね。…ふつう戦争といえば人間同士の殺し合いのことばかりを考えて、人間が動物を殺している現実にはみんな思いがいたりません。宮沢賢治は『戦争』をとても大きな概念でとらえていたわけですね」

 こうした考え方に連動する形で数年前、「憲法9条にノ-ベル平和賞を!」と呼びかける市民運動が全世界の注目を集めた。郷土の“偉人”の名誉にかかわることだけに内心、嬉しくもある。でも…。まさに戦後一貫して「憲法」の埒外(らちがい)に置かれ続けてきた沖縄の現実を目の当たりにする時、手放しではとても喜ぶ気にはなれない。「9条を守れ」と叫べば叫ぶほど、米軍基地の固定化に加担しているという側面から目をそむけてはならないと思う。そして、賢治自身がこれほどまでにもてはやされることに顔を赤くしているにちがいない。「オラ、そんたな、だいそれたことはおしょすくて…」

 ところで、当市花巻は将来のまちづくりのスロ—ガンとして、賢治にあやかって「イ-ハト-ブはなまき」の実現を掲げている。私は今回の一般質問で上田東一市長に対し、こうただした。「『烏の北斗七星』はお読みになったことはありますか。賢治精神をまちづくりにどう生かそうと…」―。上田市長は質問をさえぎるようにして言った。「以前に読んだことはありますよ。ただ、個人の価値観にかかわることに口をはさむのはいかがなものか、と。それに今回の質問は市政とどんな関係かあるのですか」

 「イ-ハト-ブはなまき」―つまりは賢治精神をまちづくりの基本に据えるとおっしゃっているから、行政トップの市長の見解を敢えて伺っている次第です―と、いう私の思惑は見事に空振りに終わってしまった。それにしても随分と退屈なお方ではある。


(写真は電線に群がるカラス。時には神の使い、時には悪魔の使いと毀誉褒貶(きよほうへん)の激しいカラスだが…=インタ-ネット上に公開の写真から)


2017.04.01:masuko:[議会報告]

賢治さんの声

貴殿の書き込みは、花巻市のことについての記述が極端に少ないと思います。
沖縄や政府に対するお話は良いと思いますが、もっと地元に則した話題の方がより身近に感じると思います。
どうも地元に対する心が見えないです。大手新聞の論説みたいなものばっかりで...。あぁ、この人は足下が見えず遠くばかりを見ているのかなと。
できれば、もっと地元の話しを掲載していただけませんか?
期待しています。
2017.06.10:まちびと:[編集/削除]

賢治さんの声

日本や世界の現状に目を向けると、一見、身近な危機とは感じられない暗雲が広がりつつあるようです。たとえば、いわゆる「共謀罪」。この法案は私たち花巻市民にとっても無関心を装うことは許されません。さらに、沖縄の米軍基地と安保条約によって、日本の安全が担保されているように全てが市民の安心・安全にかかわることだと思います。お言葉を返すようですが、「足下を見るために遠くを見ている」―ということです。賢治さんならきっと、銀河宇宙的な視点で今の世を憂うているのではないかと考えます。
2017.06.10:増子義久:[編集/削除]

賢治さんの声

「足下を見るために遠くを見ている」なるほど。
それでは、その「足下を見る」ことにですが、現在進行形の話し・解説などあると良いと思います。
お言葉を返すようで申し訳ありませんが、もっと身近な話題の考察や問題提起などが市民の代表である市議会議員としての役割のひとつではないでしょうか?
増子議員のブログ、実は楽しみにしているのでもっと身近な話題提供をお願いしたいです。

2017.06.10:まちびと:[編集/削除]

賢治さんの声

実は6月議会で花巻中央図書館の今後の立地計画について、市側の見解をただすことにしています。とくに、「賢治」関連本の充実の在り方を指摘したいと考えています。「イーハトーブはなまき」を標榜する割には現図書館の賢治の扱いは余りにも杜撰だと思います。何か知恵があったら、お貸しください。
2017.06.10:増子義久:[編集/削除]

この記事へのコメントはこちら

※このコメントを編集・削除するためのパスワードです。
※半角英数字4文字で入力して下さい。記号は使用できません。
今日 28件
昨日 437件
合計 648,853件