南ス-ダン撤収と賢治の神通力!?

  • 南ス-ダン撤収と賢治の神通力!?

 「ハゲワシと少女」と題された1枚の写真が目の前にある。うずくまったまま、動く気配のない少女の背後には鋭い目をしたハゲワシの姿が…。決定的瞬間をカメラに収めた南アフリカ出身の報道写真家、ケビン・カ-タ-さんはこの写真で、1994年度のピュリッツア-賞を受賞した。内戦と飢餓に苦しむス-ダン(当時)の現状がメディアによって、全世界に発信された。称賛と同時に「なぜ、カメラマンは少女を助けなかったのか」という批判が巻き起こった。受賞式の約1カ月後、カ-タ-さんは「報道か人命か」という論争を背に受けながら、自らの命を絶った。33歳の若さだった。写真を撮った後、カ-タ-さんはハゲワシを追い払い、少女が助かったことが後で明らかになった。

 「1日に15人から25人もの幼い命が失われている」とカ-タ-さんは自殺する前に語っていた。「南ス-ダン」がス-ダン共和国から分離独立したのは2011年7月。その後、国内は民族対立を背景にした大規模な戦闘状態に突入し、周辺国に逃れた難民は150万人以上に及び、今年は100万人以上の子どもたちが栄養失調に陥るという予測もある。こんな折しも安倍晋三首相は10日、南ス-ダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣している自衛隊施設部隊を5月末までに撤収させると表明。「自衛隊の派遣は5年を過ぎ、一定の区切りを付けることができる。治安の不安はなく、PKO5原則は守られている」とその理由を述べた。

 「駆けつけ警護」―。政府は昨年11月、安全保障関連法に基づく新たな任務を付与。派遣部隊の「日報」にも「戦闘行為」と記述されるなど現地の状況は緊迫の度を加えつつある。「ひどい緊張状態がずっと続いている」(防衛省幹部)、「隊員が1人でも亡くなれば政権は吹っ飛ぶ」(自民党幹部=いずれも11日付「朝日新聞」)…。撤収の本音が見え隠れする。こうした状況変化の中で、花巻市議会の総務常任委員会(阿部一男委員長ら6人)は13日、「平和憲法・9条をまもる花巻地域懇談会」(林正文代表)から提出されていた「自衛隊の南ス-ダン派遣撤退を求める」―請願を賛成4対反対1で採択した。

 「こんな時、(宮沢)賢治なら…」―。委員のやり取りを聞きながら唐突に、「ア-サ-の『駆けつけ英語』講座」の話題を思い出した。東日本大震災をめぐって、外国人の賢治読解(10日付当ブログ参照)に刺激を受けていたせいもあるかもしれない。詩人で中原中也賞も受賞している米国人、ア-サ-・ビナ-ドさん(49)の「雨ニモマケズ」解釈も「目からウロコ」である。賢治作品が外国語(とくに英語)とある種の親和性を有しているということなのだろうか。先月、仙台市で行われた講座に参加した遠藤セツ子さん(平泉町)のニュ-スレタ-「えんどう豆」(3月8日発行、141号)から転載させていただく。

●「野原の林の下の蔭の/小さな萱ぶきの小屋にいて/東に病気の子どもあれば/行って看病してやり/西に疲れた母あれば/行ってその稲の束を負い/南に死にそうな人あれば/行って怖がらなくてもいいと言い/北に喧嘩や訴訟があれば/つまらないからやめろと言い」(前後は略)

●東、西、南の「子ども、母、死にそうな人」には『が』がない。命にかかわることなので急いで行ってやりたい気持ち(駆けつけ)を込めて助詞がない。分かりやすく2017年の日本語で言うと、「駆けつけ看病」「駆けつけ収穫」「駆けつけ死に水」。北の「喧嘩や訴訟」には『が』をつけて距離をとって行かない。「紛争地域には行かない」という憲法9条の理念を盛り込んでいる。英訳するとよく分かる。政権は憲法だけではなく「雨ニモマケズ」もつぶそうとしている。賢治の書いたこととかみ合わないことをやろうとしている…。言葉の真の意味での”駆けつけ警護”の精神はこの詩に宿っているということであろう。「ビナ-ド」流読解に思わず、うなってしまった。

 「PKO5原則は実質的に崩壊している」、「派遣部隊の中には岩手県の部隊も入っている」、「撤収は決まったが、それまでに何かあったら」…。総務常任委員会の審議は「憲法」問題という請願趣旨をそっちのけで進められた。そしてなぜか、南ス-ダンの国民が置かれている厳しい現実に向ける眼差しはほとんど伝わってこなかった。このスタンスは沖縄の「米軍基地」問題にも通じる。結局は「他人事」―。「当県の部隊が関係していなかったら、どうなのか」と思わず反問したくもなる。カ-タ-さんがハゲワシに襲われそうになった少女を撮影したのは24年前。こんな状態がいまも続いている。自衛隊員とこの少女との間に命の差はない。眼差しに差があってはならない。カ-タ-さんが切り取った、目をそむけたくなるような「現実」がそのことを私たちに教えている。

 この日の総務常任委員会では「日本国民救援会花巻支部」(高橋綱記支部長)から出されていた「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)法案を国会に提出しないことを求める」―請願も審査されたが、逆に反対3対賛成2で不採択となった。20人以上の傍聴者が身を乗り出すようにして審査の成り行きを見守ったが、委員長を除く5人の委員が賛否の意見を一方的に述べただけで、反論や異論の議論は一切なかった。憲法で保障された「請願権」がないがしろにされたということである。今月23日に開かれる本会議でこの二つの請願の採否が最終的に決まる。その場で審議の内容についても問いただしたいと考えている。

 「議員は、議会が言論の場であること及び合議制の機関であることを認識し、議員相互間の自由な討議を尊重しなければならない」―花巻市議会基本条例(議員の活動原則)が泣いている。

(写真は賛否討論がうずまいた「ハゲワシと少女」の写真。遠いアフリカの地で起きていることに私たち日本人も無関心を装うことは許されない=インタ-ネット上に公開の写真から)


2017.03.13:masuko:[議会報告]

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