美談の陰に…

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 「きれいな花には棘(とげ)がある」と言われる。用心してかからないと、美談の陰にも底意(そこい)が潜んでいる―というお話し。11日付当ブログ(「エルトゥ-ルル号」からの恩返し―ゆいっこ花巻が受賞)で紹介したように安倍晋三首相の肝いりで制作された、日本・トルコ合作の映画「海難1890」はいま、静かな感動の輪を広げている。とくに日本人のメンタリティに訴える前半部分には私自身、理屈なしに心を動かされた。しかし、今年3月に発足する予定の「『海難1890』を成功させる会」の最高顧問に首相自身が就任するというニュ-スを聞いて、鼻白んでしまった。

 「(人命救助といえども)自衛隊機は法律の制約で飛ばすことはできない」―。安全保障関連法を意識させる、こんなセリフが映画の後半部分に出てくる。思わず腰を浮かしてしまった。安倍首相の魂胆が透けて見えたからである。公開に先立つ昨年11月、現地トルコで開かれた上映会で安倍首相は「人類に普遍的な勇気と思いやりの物語」と最大級の賛辞を贈った。文部科学省も「心のきずなは国や世代を超えて…」とバックアップする姿勢を見せている。一部で“国策映画”とささやかれるゆえんである。そこまで肩肘を張りたくはないのだが…。

 「汚染水による影響は福島第一原発の港湾内に完全にブロックされている。私たちは決して東京にダメ-ジを与えない」(2013年9月8日)―。東京オリンピックの招致に向けた安倍首相の「フクシマ」安全宣言こそが、その後の事態を予告する号砲だったのかもしれない。解釈改憲による「集団的自衛権」行使容認の閣議決定(2014年7月1日)、「特定秘密保護法」施行(2014年12月10日)、九州電力川内原発1号機の再稼働(2015年8月11日)、「安全保障関連法」強行成立(同9月19日)、米軍普天間飛行場の「辺野古」移設をめぐり、国が沖縄県知事を提訴(同11月17日)…。

 「戦後70年」という悪夢を見せつけられた挙句、今さらながら「勇気と思いやり」の物語を口にされたのではたまったものではないという思いである。“ブラックジョ-ク”と切って捨てるわけにもいかないだろう。映画のキ-ワ-ドは「助けを求める者に、手を」―。この言葉に背を向け続けてきたのは「フクシマ」の“棄民宣言”にも等しい言説にひとかけらの痛痒(つうよう)も感じない首相、あなた自身ではなかったのか。宮沢賢治のふるさと―「イ-ハト-ブはなまき」の住人としてはなおさらである。「雨ニモマケズ」を今一度、おさらいしてほしいと思う。

 数年前、映画「永遠の0」(山崎貴監督、2013年)が大ヒットしたことがあった。作家の百田尚樹さんの原作で、これまた日本人のメンタリティを呼び戻す「特攻隊」ものとして、大きな関心を集めた。一見、「反戦」を装いながらも実は美談仕立ての演出だったが、それなりに感動したのを覚えている。その百田さんが安倍首相を援護射撃するつもりで“爆弾発言”をしたのは昨年6月25日―「安保」論議が最高潮に達していた、ちょうどそのころのことだった。憲法改正を推進する勉強会「文化芸術懇話会」の席で、百田さんは自民党の若手国会議員を前に自説をぶった。

 いわく―「(米軍普天間飛行場は)もともと田んぼの中にあり、周りは何もなかった。基地の周りに行けば商売になると、みんな何十年もかかって基地の周りに住みだした」「基地の地主さんは年収何千万円なんですよ、みんな。ですからその基地の地主さんが、六本木ヒルズとかに住んでいる。大金持ちなんですよ」。その上で「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」と言い放った。日本で唯一の地上戦をたたかった歴史、米軍基地の7割が集中する沖縄の現実…。この作家もまた「助けるを求める者に、手を」という呼びかけに唾を吐きかける一人である。

 自戒―情緒に流される余り、おめおめ油断することなかれ。


(写真は村人総出で遭難したトルコ人を介助する感動の一場面=「海難1890」のHPから)

2016.01.16:masuko:[身辺報告]

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