「新しい図書館は、今後何十年と使っていくこととなるものであり、市民の皆様の御意見を十分に伺いながら、より利用しやすい図書館の整備を早期に実施できるよう努力してまいりたいと考えております」―。平成26年2月に就任した上田東一市長はその年の12月市議会定例会の質疑で初めて、図書館の早期実現について言及した。この方針はその後「花巻市立地適正化計画」(平成28年6月)の中に正式に位置づけられ、足かけ10年に及んだ新花巻図書館の立地問題は今年3月、市側が「駅前立地」を最終決定するという経緯を辿った。
「新花巻図書館整備基本計画の策定に関し議決を求めることについて」―を議題とする教育委員会議(佐藤勝教育長ら委員6人)が5月19日に開催される。提供される資料は3月21日付で策定された「新花巻図書館整備基本計画」(案)で、立案者として「花巻市」と並んで「花巻市教育委員会」の名前が並んでいる。突然の“登場”にオヤッと思った。図書館の立地問題を一貫してリードしてきたのは上田市長が率いる生涯学習部を中心とする首長部局だと思い込んでいたからである。このからくりについてはすでに言及してきたが、市民の理解を促すためにもう少し論点整理をしてみたい。
図書館を所管するのは言うまでもなく、教育委員会である。しかし、時代の推移とともに「まちづくり」の観点から首長部局との間で権限移譲が進むようになり、その代表的な例が「補助執行」という制度であることは前述した。当市の場合の関係法令は―
●「花巻市教育委員会の権限に属する事務の補助執行に関する規則」(平成19年3月)
~地方自治法第180条7に規定に基づく規則。補助執行させる事務は「花巻市立図書館に関すること。花巻市立図書館協議会に関すること」で、担当職員は「生涯学習部長、新花巻図書館計画室の職員及び図書館の職員」に限定され、予算執行を除く市長の関与は排除されている。一方、「花巻市部設置条例」(平成18年1月)によると、市長の権限に属する事務分掌(生涯学習部)の中に「図書館」は入っていない。
●「花巻市教育に関する事務の職務権限の特例を定める条例」(平成20年12月)
~上位法「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(昭和22年4月)の第23条(職務権限の特例)に基づく条例で、市長が直接、管理・執行ができる教育関連の事務としては「(学校行事を除く)スポーツ全般と(文化財の保護を除く)文化全般」が該当するとされ、図書館関連は含まれていない。その後令和元年の法改正によって、具体的に「図書館、博物館、公民館その他の社会教育に関する教育機関のうち当該条例で定めるもの」についても、市長の管轄下に置くことができるとされたが、当市ではこの条例化に踏み切らないまま、現在に至っている。一方、「花巻市教育委員会行政組織規則」(平成19年3月)は属する教育機関(第23条)として「花巻市立図書館」を列挙している。
以上から言えることは、首長部局が図書館部門に関わることができるのは「補助執行」に限定され、それに伴う関連事務も教育委員会の監視下で行われなければならないということである。ところが2020(令和2)年1月、突然公表されたのが「住宅付き図書館」の駅前立地(いわゆる“上田私案”)だった。仮に教育委員会の頭越しに行われたトップダウンの政策決定だとすれば、上田市長の法令違反は明らかで、その逆であるなら図書館を所管する教育委員会側の責任も問われなければならない。開示請求した内部文書を見る限り、この構想の立案過程に教育委員会が関与した形跡はまったくない。
「教育委員会として、補助執行を出しっ放しはやはり良くなかったということがあります。教育全体、特に社会教育生涯学習の動きについて、なかなかご理解、情報提供する機会がなかったということも反省しております」(令和4年3月23日開催「第4回教育委員会議定例会」会議録)―。佐藤教育長のこの発言に見られるように「補助執行」のあり方にある種の疑問を呈しながら、その後改善された様子は見られない。上田市長の越権行為と佐藤教育長の不決断が“立地”論争の長期化を招き、市民の間に大きな不信感を植え付けたという意味で、双方の責任は計り知れない。と同時に「駅前立地」の決定に至る手続き自体も無効だと言わざるを得ない。
「補助執行」をめぐっては他の自治体でも混乱が見られ、たとえば愛知県長久手市では昨年、議会側から「(市長が)古民家移転事業について、移転中止を判断したのは越権行為ではないか」と追及され、その運用の見直しを迫られたケースがあった。一方、徳島県阿南市は今年3月、「阿南中央図書館(仮称)整備計画」を策定したが、その計画策定者は「阿南市教育委員会」だけとなっており、図書館の所管が明確に位置づけられている。
いまこそ、行政訴訟も視野に入れた「無効な行政行為」について、真剣に向き合うべき時かもしれない。
(写真は手狭な閲覧室で読書する高校生。不毛な“立地”論争がいたずらに時間と金を浪費した=花巻市若葉町の市立花巻図書館で)
≪追記ー1≫~「瑕疵ある議会答弁」
匿名を名乗る方から、以下のような長文のコメントが寄せられた。新図書館問題の背後に広がる「闇の構造」に連日振り回されていた時だけに、頭の整理ができたような気がする。当市は今まさに行政と議会とがまなじりを決して監視し合うという「二元代表制」の崖っぷちに立たされていると言える。
※
「瑕疵ある議会答弁」とは議会における質問に対する答弁が、内容に誤りがあったり、不十分であったり、あるいは違法な行為に基づいているなど、何らかの欠陥・瑕疵があることを指します。具体的には、質問に対する正確な説明がなかったり、誤った情報に基づいて答弁されていたり、あるいは、法的な根拠が欠如している場合などが考えられます。詳しく説明します。
議会において、議員が行政機関に質問しそれに対する答弁がなされることは、地方自治法に基づき、行政の監視と責任追及の重要な役割を果たします。この答弁が、議会における情報開示の役割を担い、また、行政の活動をチェックする手段となります。「瑕疵ある議会答弁」とは、この答弁が、以下のような理由で欠陥を持っている場合を指します。
・内容の誤り:答弁に事実誤認や誤解がある場合。例えば、住民に誤った情報を伝えている場合など。
・不十分な説明:質問に対する回答が、必要な情報や詳細を欠いている場合。
・法的な根拠の欠如:答弁が法的な根拠に基づかず、違法な行為に基づいていたり、あるいは、法律を無視した答弁である場合。
・不当な発言:議員の個人的な意見や判断が、答弁として表明された場合。
・反論の余地のある発言:答弁内容が、明確な根拠や事実に基づかず、反論の余地がある場合。
これらの「瑕疵」は議会において問題提起され、修正を求められる可能性があります。また、必要に応じて、議会が行政機関に対し、事実確認や説明を求める場合もあります。例として、以下のようなケースが考えられます。
住民の意見を無視した答弁、法律に基づかない答弁、過去の議決事項に反する答弁、事実誤認に基づく答弁。「瑕疵ある議会答弁」は、行政の責任を問う上でも、市民の知る権利を保障する上でも重要な問題です。議員は、議会における答弁の正確性や妥当性を注意深く確認し、不適切な答弁がある場合は議会において指摘し、修正を求めるべきです。
≪追記―2≫~教育委員会議の瑕疵ある議案
「読者」を名乗る方から関連のコメントが寄せられた。「図書館整備事業に権限のない市長が行なってきた瑕疵ある議会答弁とそれに基づく議論や手続きによって作成された新花巻図書館整備基本計画は瑕疵ある議案とはならないのでしょうか。議決そのものが瑕疵ある行為とはならないのでしょうか」
≪追記―3≫~「補助執行」という名の“底なし沼”!!??
最近、“補助執行”パニックに陥っている。市例規集の外部リンクから「教育」や「図書館」などのキーワードを片っ端から検索する日々。図書館問題の「闇の構造」の解明にのめり込んでいるうちに、今度は「教育長に対する事務の委任等に関する規則」(平成18年1月)なる文書にぶち当たった。そうでなくても法令の条文というやつは素人にはなかなか、歯が立たない。ためつすがめつ、眺めているうちに「学校その他の教育機関の施設、設備、組織編制、教育課程、教科書その他の教材の取扱いその他管理運営の基本方針を定めること」(第二条5:委任事項)という条文が目に飛び込んできた。
この条文に該当する「教育機関の基本方針」などは教育長の決裁事項ではなく、教育委員会議の議決事項になっていることが分かった。新花巻図書館整備基本構想(平成29年8月)に定められたいわゆる「3つの基本方針」と、その後イメージをより具体化し分かりやすくした説明資料(令和5年11月)の2件について、過去の会議録を辿った結果、このいずれも議決がされていないことが明らかになった。
以上の点から、図書館整備に関しては市長部局のみならず、教育委員会でも適切な手続きが取られていなかったことが判明。今月19日開催予定の教育委員会議の議案となっている「新花巻図書館整備基本計画」(案)についても、それ以前の「基本方針」が議決を経ていない以上、「無効な提案」と言わざるを得ない。
≪追記―4≫~「まだありました」
「懐疑的な市民」を名乗る方から、以下のようなコメントが寄せられた。まるで、災いや不幸などを閉じ込めていた「パンドラの箱」が開け放たれたような…。この箱には「希望」だけが残されたという。そのひとかけらに希望を託したい。
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ブログ記事に触発されたので、手続きのことを調べてみました。そうしたところ、また怪しいことが見つかりました。新花巻図書館整備基本計画の試案策定を検討する委員会のことです。新花巻図書館整備基本計画試案検討会議設置要綱の組織を規定している第3条に「検討会議は、次に掲げる者をもって組織し、委員は、市長が委嘱する。」とあり、市長が委員を委嘱する、と書かれています。ここでも図書館整備事業に権限のない市長がその検討会議の委員を委嘱してしまいました。
そもそも教育行政は政治的中立性を保つため、市長部局から独立した教育委員会が担ってきましたが、その独立性を侵して、市長が最初に主張した図書館駅前立地を含む課題を職務権限のない市長が委嘱するという間違いをしてしまった感があります。この検討会議が教育委員会によって委嘱されていれば、法的に問題がなく、また、中立的第三者的な検討会議になったことでしょう。このような適法ではなく、中立性に疑問のある検討会議が策定した試案なるものを発展させた新花巻図書館整備基本計画は、計画としての妥当性があるようには感じられません。花巻市は法治主義から人治主義になってしまったのでしょうか。