病は住まいから

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資料を整理していたら、7年ほどまえに、京都で開催された「医療と住まい」という講演会の資料を見つけましたので、改めて紹介させていただきます。

講師は、HPの動画にも登場する、綾部ルネス病院副院長の深谷賢司先生で脳外科のスペシャリストでもあります。

深谷先生は、13年前にソーラーサーキット工法で家を建てられたSCオーナーでもあります。

少し長くなりますが、講演の一部を紹介させていただきます。


 『家では実はよく人が死ぬ。近年の統計をみると、交通事故による死亡者は5千人弱と年々少なくなる一方、家庭内事故による死亡者は1万2千人と2倍以上多い。 

 内訳をみると、その78%が65歳以上の高齢者。食べ物によるものを含む窒息死が3768人、溺死・溺水死3632人、転倒死・転落死2260人、火災1319人。全体の3割を占めて2番目に多い溺死・溺水死は、温度差による急激な血圧変動が原因だ。

 冬の外気が氷点下1℃とすると脱衣所は5℃程度。そこから40℃近くの熱湯に入ると、温度差によって血圧が急激に上がり、血管が破裂して脳内出血を起こし、意識を失って溺れてしまう。病院に運ばれて死亡する人をあわせると、入浴による急死者は年間1万4千人以上にのぼる。

 浴室だけでなく、トイレ・洗面所・脱衣所など寒い場所でも、暖房が効いた居室との温度差によって脳血管障害が起こり、死に至る危険がある。

 こうした脳血管障害で死亡者は、季節では冬が多く、地域では気温の低い場所ほど死亡率が高い。ただし北海道内では気温の低い地域ほど死亡率が低下する。これは住宅の断熱性能が高いためといわれている。建物内部の温度バリアフリーを確保することで、脳血管障害による死亡率を下げることができる。

 私は仕事柄、急な転勤が多く、大学卒業から現在の家を新築するまで、北陸地方を中心に転々と住まいが替わり、各地の住居であらゆる苦い経験を味わってきた。

 北陸地方の生活はとくに冬がつらく、マイナス5℃以下になることが珍しくない。冷え込みの厳しい朝は暖房が効くまで布団から出られず、暖房機の前でしばらく温まり、身震いしながら台所に立つ。断熱性の低い家では、水道をひねっても水が凍って出ないこともあった。

 それが高断熱高気密と計画換気の現在の家は、ファン付きラジエーター2台のみで全館暖房している。脱衣所、浴室、リビングともに温度が一定。暖房する範囲は広がったが、暖房費は最大2万円ほど。以前の住まいと同じ程度で済んでいる。

 冬は朝布団から出たくないということが一切なくなった。お風呂のときも着替えが楽。パジャマも薄手で足は裸足で十分。セーターも靴下もいらない。電気カーペットやコタツなどの暖房器具も一切要らない。

 そして最大の変化は病気が少なくなったこと。子どもや妻が風邪をひかず、引いても家族内に広まらない。私の妻は平熱が35℃台で、それまでよく風邪を引き寝込んでいた。体温が1℃下がると免疫力が30%低下するというが、妻は平熱が温かくなったことで免疫力が確実に上がっている。実際、妻の体が元気になったことで、現在の家に引っ越してから6年の間に3人の子どもに恵まれた。「病は住まいから」だといまは感じる。

 そして何より、住まいが快適になったことで、家族に笑顔が増えたのが一番の喜びだ。「笑う門には福来る」というが、何気ない生活のなかにニコっと笑えるものがあるとすべてがうまく循環する。住まいは、住む人の価値観を変える力を持っている。』


2018.02.04:m-kuma:[熊谷 昌則/レポート集]

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