観光農業のカリスマ 工藤順一

▼機関紙「旅行主義」に寄稿しました。

私が会員になっている「旅ジャーナル会議」で発行している機関紙「旅行主義」に寄稿しました。
今回は自由テーマを選択し私が思うところをフランクに書かせて頂きました。
以下がその文章です。

日本全国を巡り山形の素晴らしさ再発見

 一昨年の4月、内閣府、国土交通省、農林水産省「観光カリスマ百選」百選選定委員会から「観光農業」のカリスマに選定を受けたことと、永年勤めたJAを退職したことを機に「観光カリスマ工藤事務所」を開設しました。この2年の間、北は北海道網走、南は沖縄県久米島まで全国各地で講演や観光アドバイスを行う機会に恵まれました。
ありがたいことに、仕事柄訪れる先々の情報は、講演を主催した担当者の方々がパンフレットや総覧などを事前に送ってくれますし、また講演前にはリサーチを兼ねて町をご案内頂いたり散策したりできるので、通常の観光旅行よりはもっと深く町に入り込むことが出来て、毎回役得だと感じ入っています。また、目的地への往復には、時に飛行機を使うものの、たいていは新幹線や在来線を乗り継いでの旅ということになり、その車窓から見る風景は四季折々変化に富み、狭い島国とはいうものの日本列島の南北・東西の景観や文化・歴史等の違いを感ぜずにはいられません。
北海道の網走に行ったときに見た「深緑」ならぬ「紅緑」。これは紅葉の美しさを表現したものです。そして珊瑚の群れ。流氷の浮かぶ広大な海。最北の町だからこそ、また晩秋の北海道が見せる大変印象深い風景でした。
以前全国の観光業者に営業周りをしていた際、北海道から修学旅行を誘客しようと懸命に働きかけたことがあります。しかし、東北を飛び越えて日光や京都・大阪に行ってしまう。その時は余り理由が分かりませんでしたが、数年経って端と気づいたことがありました。それは、北海道には歴史的建造物や古い神社・仏閣が見あたらないということです。北海道には広大な土地と自然はいっぱいあるものの、歴史や文化的なものを求めて人が移動することにようやく気が付いたのです。人は一体何を求めて旅行するのかを考えさせられた経験として今でも印象深く覚えております。
同様に、関西圏へ宮城県の松島を営業したことがあります。しかしこれがさっぱり当たらない。松島が日本三大景勝地とはいえ、瀬戸内海を間近にしている人たちにとってはそう代わり映えしないもののようでした。また、中部・九州地方には干潟はあるものの湖がないことも営業を通して学んだことでした。
今や高速交通網が整備され、日本中どこへ行くにもさしたる時間がかからず、身近な距離感になりました。そしてまた、団体で企画して旅行していた時代から、個人がどこでも行きたいところに行ける時代が到来したという、時の流れを感じると共に大きく価値観が変化したことを感じます。
こうして全国各地を巡っていると、改めて感じるところがあります。それは、毎回旅に出るたびに、私の愛する郷土「やまがた」の素晴らしさを再発見しているということです。時として同じ環境に長くいると、その良さや素晴らしさを見過ごしてしまいがちです。正に埋もれている宝に気づかずに生活してしまうことが多いのです。しかし、県外に行く機会が多い私は我がふるさとをいつも客観視する機会に恵まれて、ここに生まれ住んでいることを幸せだと実感しています。
私が山形を売り出した頃、「農業は無限の観光資源」を提唱した頃から言い続けていることですが、本当に自分の生まれ育った町を誇ること、愛することが何よりも重要だと思ってきました。それが第一の原動力になってまちの良さを広報し、全国からお客様をお呼びできたのだと思っています。
山形には春・夏・秋・冬というはっきりした季節感があります。目で耳で肌で体で、衣食住で感じる四季の変化があります。12ケ月カレンダーの如くに変化するその風景や生活の営みには、毎年毎年新しい役者が登場する舞台でもあるかのような新鮮で大きな感動とドラマがあります。
雪解け間もなく、こごみ、わらび、竹の子、しおで、あいこといった山菜が春の訪れを告げ、桜の花ならぬ果樹の花(さくらんぼ、桃、スモモ、ラ・フランス、りんご)が一斉に咲き誇るその見事な風景は山形の春の風物詩といっても過言ではありません。田んぼの耕耘作業や、いよいよ田植えが始まる頃に見せるコバルト色の広がりに、少しずつ夏の到来を感じ始めます。そして露地野菜も、茄子やカボチャ、キュウリやトウモロコシ、菊の花(もってのほか)といった美味いものが続々と顔を見せ始め、食卓に上る野菜の種類で夏を実感するものです。ここ最近健康食品としても取り上げられている山形の「だし」(なす、キュウリ、ミョウガといった野菜を刻んで醤油で味付けし、ご飯や豆腐にかけて食べるもの)は、食欲不振の夏に野菜をたくさん取る意味から、先人の知恵が生みだした夏の定番メニューです。また、果樹や畑、田んぼに集まる虫達(カブトムシ、バッタ、蝉、カエル、赤とんぼ、イナゴ)もバラエティーに富んでいて、当たり前の自然の営みを身近に見ることが出来るということも実はとても幸せな瞬間です。秋には山のキノコ類がオンパレードし、その種類の多さに山の持つ生命力と奥深さを知ることが出来ます。山形の名物「芋煮会」は河川敷等で行われる収穫時期の行事で、いまや日本一の芋煮会は全国放映されるほどの注目度になりました。更に、盆地の山形において欠かすことが出来ないのが紅葉の山並みで、息を飲むほど美しい赤や黄色に色づいた木々には暖かささえ感じられます。冬になればまた冬の良さで、蔵王の樹氷や墨絵を見るような最上川の雪見舟は圧巻です。
今、全国各地で観光による地域おこし・地域づくりが活発に行なわれています。私が講演で招かれるところも大概皆さん「どうやって人を呼ぶか」で四苦八苦しているような状況です。そこで私は最初に、その地域の資源(人・モノ・歴史・文化・自然等)をもう一度再発見・再認識することだと申し上げております。そこに住む人たちが「何もない」を連発していたらお客さんは誰も来ません。尋ねられた場所やお店のことを「さー、知らない」などと応えたら、せっかく訪問した場所の魅力は半減し、お客様もがっかりしてしまいます。地域おこしや地域づくりは、まず自分のまちを「知ること」そして「興味を持ち」「愛すること」に尽きると思っています。そして異業種との交流を密にして連携をとってもてなすことが重要です。過剰なもてなしは必要ありません。笑顔や思いやり、温もりといった、誰もが出来るもてなしの心です。観光に敵はいません。「敵」を「素敵」に変えてこそ、点を線にして面にしてこそ、その地域の魅力が増すものと考えています。全国的に見ても、こういった心持ちで積極的に住民参加型で取り組んでいるところが人気です。人が集まっています。私が予てより言っている「元氣のあるところには人が集まり、人の集まるところにはお金も集まる」これがその答えだと思います。そしてこれこそ地域活性化であると信じております。
山形の素晴らしさを伝えながら営業で全国を回っていた頃から現在に至るまで、本当に多くの方々とお会いして参りました。それもこれも「観光」という仕事に携わったお陰だと思っています。素晴らしい風景や食べ物はもちろんのこと、一瞬でも心を通わせる人との出逢いや交流は私のかけがえのない財産であると痛感する毎日です。人がまちを作り、人が未来を作るとしたら、人の気持ちが変わり輝くことで、まち自体が変わるということだと思います。そしてそういった例を私自身たくさん体験し、見て参りました。
これからも多くの人と出会い交流し刺激して、みんなが自分のまちを誇り自慢しあって、元氣にますます輝くことができる様に、少しでもお手伝いをして参りたいと思っています。

2005.05.16:観光カリスマ/工藤順一

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