鴨が葱を背負って来る
鴨が葱を背負って来る
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死にかけた人間なんかに恋をしなくってよ
――あたし、死にかけた人間なんかに恋をしなくってよ!」
幸子は、そう云い捨てると、駈け出した。
旻は、周章て縁側から芝生へ飛び降りた。そして跣足(はだし)のまま、蹌踉(よろめ)[#ルビの「よろめ」は底本では「よろめき」]きながら、咳につぶれた声で呼び立てた。
――幸ちゃん! ごめん、ごめん。……幸子さん!」
併し、幸子は、振返りもせずに、どんどん裏木戸から断崖(きりぎし)の松林の方へ走り去った。旻は踏石の上の庭下駄を突っかけて、その跡を追った。
間もなく、旻一人だけ切なそうな息を切らせて戻って来た。
――何処へ行ったのか、見えなくなってしまったよ。」と旻は、家の者に告げた。旻は苦しがって、それから直ぐ床についてしまった。
ところが、何時迄待っても、夕方になってやがて浜辺や松林の景色が物悲しく茜色に染まって、日が暮れかけても、幸子は帰らなかった。人々は漸く気遣いはじめた。そこで幸子の立ち廻りそうな極めて少数の家々と停車場とへ問い合せてみたが、一向に知れなかった。
夜っぴて、幸子は帰らずにしまった。
旻は旻で、ひどく熱を出して、多量に喀血した。
ひどく申訳のないような顔をして:鴨が葱を背負って来る
2012.04.01:
kamo
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