鴨が葱を背負って来る

鴨が葱を背負って来る
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 その秋に入って、旻の病勢は頓(とみ)にすすんだ。
 それで幸子は夫の同意を得て、義弟の看護のために別荘に逗留することとなった。晃一も殆ど毎度の週末には泊りがけで遊びに来た。
 旻にして見れば兄夫婦が、それこそ唯一つの身内だったのでこの上もなく喜んだ。
 幸子は寝食を忘れて病人の看護につくした。
 病人は、海にむかって硝子戸を立てめぐらした座敷で、熱臭い蒲団に落ち込んだ胸をくるんで、潮風の湿気のために白く錆びついた天井を見つめた儘、空咳をせきながら、幸子の心づくしに堪能していたが、それでも覚束ない程感動し易くなっていたので、時々幸子を手古摺らせた。
 ――僕は幸子さんにそんなにして貰うのは苦しい。いっそ死んでしまい度いよ。どう考えたって、僕なんてのは余計者なんだからね。」
 ――そんなことを云うと、あたしもう帰ってよ。」
 ――ああ、帰っておくれ!」
ひどく申訳のないような顔をして:鴨が葱を背負って来る
2012.04.01:kamo:count(302):[メモ/コンテンツ]
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