菅野芳秀のブログ
▼春が来た・・・けれど・・。
春だ。今年もそろそろ米作りの作業を始めなければならない。
その第一歩は、こちらで「しおどり」と呼んでいるもので、生玉子が浮くほどの塩水の中に種もみをいれ、充実している実とそうでない実を選別する作業だ。浮力が高い塩水の中でもなお沈む実だけを取り上げ、種にする。とりあえずこの作業は終わったのだけれど・・イマイチ気がはいらない・・。
「早いなぁ。もう終わったのかい?」
先日、水に浸している種もみをみながら、隣の健ちゃんが話しかけてきた。健ちゃんは70歳。奥さんと二人、3.5haほどの水田を耕す専業農家だ。村では篤農家で通っている。
「おれはこれからだが、こんなに米の価格が安いんじゃ、なかなか力が入らなくてよ。」
「そうだよなぁ。村のみんなはどうすんだろう。今年、作るべか?」
「作るべなぁ。田んぼあるし・・」
米価格の下落はすさまじい。
JAが当地で発表した今年の買取価格は1俵60kgあたり、平均1万円。20年前の1/2以下だ。東北農政局が発表したH18産米の生産費は1俵あたり15,052円だから、今年は米一俵出すごとに5,000円のお金を貼り付けてやらなければならないことになる。それに35%の減反だ。これではやっていけない。作れない。
自民党政府は長年、日本の水田農業の国際競争力を問題にし、執拗に大規模稲作への転換を進めようとしてきたが、ここまでくれば規模の問題ではない。日本列島で米を作って暮らすという行為自体が不可能だということだ。
おそらくあと10年もすれば、日本の水田農業は壊滅だろうなぁ。田畑に囲まれた村々も崩壊だろう。のどかな田園風景は一変するに違いない。農業、農村などというものは一朝一夕にして出来上がったものではない。田畑と暮らしの数千年の営みのなかで形成されてきたものだ。それがいま、崩壊していこうとしている・・・。つらいですねぇ。たまらんですねぇ。
急速な日本農業の崩壊・・・。この背景にはWTO(世界貿易機関)がある。関税を取っ払い自由貿易を進めようという政策のなかで生みだされてきたものだ。
このままでいいのかい?本当にいいんかい?
こんな記事が毎日新聞に載った。
「 現在は高い関税によって保護されている日本の米だが、仮に撤廃されたらどうなるか。農林水産省の試算によれば、日本の10分の1以下の価格のコメが入ることで、日本のコメ産地は崩壊。農地の60%、1万以上の集落が消滅する。
日本の食料自給率は現在39%。オーストラリア237%、米国128%、フランス122%、英国70%などと比べて極端に低いが、これが何と12%になってしまう。この時、世界の異常気象や戦争などで輸入がストップすると、終戦直後の配給制度が復活し、イモなどに頼る食生活もあり得るという。」
(毎日新聞10/11東京夕刊http://mainichi.jp/life/food/news/20071011dde012200010000c.html)
このような試算があるにもかかわらず、政府は関税撤廃の道をすすんでいる。なんでだべ?その方が経済的に得だからだべ。お金になるからだべぇ。
でもなあ、なんかおかしくないかい?あまりにも目先の利益で考えてないかい? おれには長期的に見ればとり返しのつかない道を転げ落ちていっているとしか思えないのだけど。
「で、健ちゃんはどうする?作るのかい?」
「おれか?やっぱり作るよ。それしかないべぇ。いまさら他に仕事ないしよ。でも機械が壊れたら終わりだなぁ。」
田畑の雪もすっかり消えた。
忙しい田んぼの季節はそこまで来たのだが・・・力が入らない。この国はどうなっていくのだろうか。考えれば考えるほど恐ろしい・・・。
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