菅野芳秀のブログ

▼ 第22回 オンドリたちの危機管理 05,10,4


悲しい物語を中心にオンドリの話が続いた。これだけで彼らの話を終わりにしたとすれば、きっとオンドリたちの中から抗議の声が上がるに違いない。
「俺を説明するのに交尾の話だけで終わりなのかい?水臭いじゃないか。」と。

 そうなのだ。彼らと長年付き合ってきたぼくは、折にふれて示す彼らの魅力ある行動をたくさん見てきたし、ほとほと感心させられたことも一度や二度ではなかったのだから。確かにそれを書かなければ片手落ちになってしまう。

なかでも鶏舎から外界に出たときの「危機管理」は見事なものだ。

ニワトリたちは午後になるとローテーションにしたがって鶏舎の外にでる。お日様の暖かい陽射しのもと、草をついばんだり、砂浴びしたりしながらのんびりと過ごす様子は、見ている僕にとっても気持ちがいい。そんなのどかな光景を壊すのは野良猫などの闖入者だ。

 たとえば猫が来たとする。危険が近付いたと判断したオンドリは大きな声を出し、あたりに散らばっているメンドリたちに警告を発する。メンドリたちは一斉にオンドリの周りに駆け寄る。彼は彼女たちをかばうようにして、外敵をにらみつける。両者の間にしばし張り詰めた緊張が続いた後、ほとんどの場合、猫は手出しできずに退散してしまうのだ。オンドリは再び悠然と草をついばみ始める。それを見てメンドリたちも安心したようにまた周辺に散らばっていくのだ。この「危機管理」の見事さよ。

こんなこともあった。ぼくの子ども達が小学1,2年生のころのことだ。働いているぼくの傍で、子ども達は棒切れを持ってニワトリを追いかけ回して遊んでいた。のどかなひととき。「ヒエーッ」突然あがった子どもの悲鳴にあわてて振り向くと、オンドリが子どもめがけて強烈なとび蹴りを食わしている。一度、二度、三度・・。ぼくは思い切り駆けていって子どもを抱きかかえた。すでに身体のあちこちが傷ついていた。

子どもばかりではない。慣れない者が鶏舎の中に入り、それがオンドリにとって「危機」と受け取られれば、大人でさえもキックの洗礼を受け、逃げ出すこともある。

オンドリと比べれば、人間の大人ならおよそ20倍、子どもだって10倍やそこらの体重差がある。彼らから見たら、我々はほとんど恐竜のように大きいはずだ。にもかかわらず、その格差をものともせずに、身を挺してメンドリたちを守ろうとするこの勇気。この責任感。

さらに、夕方、薄暗くなるまで鶏舎に帰らないメンドリを案じて、入り口付近でいつまでも待っている姿や、メンドリ同士の喧嘩に割って入って、争いを止めさせようとしている様子などを見ていると、人間の男の方が彼らよりも「上」だなどとはとても思えなくなってしまう。

そしてね。ちょっと大げさに聞こえるかもしれないが、見ているぼくの方が、彼らから「しっかりしろよ。」といわれているようで、いささか神妙な気持ちになってしまうのだ。



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2006.04.17:kakinotane

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