菅野芳秀のブログ

▼ 第21回 オンドリを減らす  05,9,25


今回は、前回のオンドリの話で多くの方々の涙を誘った「もてすぎるのも困りもの」の前史にあたるものだ。
オンドリの悲哀に満ちた物語はなぜ始まったのか?たくさんの方々から問い合わせが寄せられた。

それじゃ、あまりにもオンドリがあわれだよ、もっとオンドリを増やせばいいではないかと。ぼくもここのところに関しては、ぜひとも書いておかなければと思ってはいたんだ。

さて我が家のニワトリたちは一群が100羽以内で暮らしており、その中に一羽ずつのオンドリがいる。有精卵にするには10羽から20羽に一羽の割合でオンドリを入れなければならないという。ぼくはそのために一つの群れに3〜4羽の割合で飼ったことがあった。

しかし、やがてぼくはそのオンドリを減らさざるをえなくなってしまったのだ。それというのも・・・。

まだ、ニワトリを飼ってまもない頃のことだ。当時導入した15羽ほどのオンドリたちはやがて成長し、トキの声を放ち始めた。朝ならまだいい。彼らは夜中の2時ごろに鳴きだす。それもひんぱんに。鳴き声は夜の静寂を破り、ゆうに2km先までもとどくだろうというほどの大きさ。一羽が鳴き始めると他の者たちも負けずに大声を出す。オンドリたちの夜中の大合唱。
鶏舎の両隣がすぐに民家なのだからたまらない。それが始まると近所に申し訳なくて、申し訳なくて寝てなどいられなかった。

「シーッ静かにしてくれ!頼むからよ。ぼくを困らさないでくれ。」

必死で夜中の鶏舎を走りまわった。こんなことが続くと、小さな物音にも「またか!」と過敏に反応するようになる。寝不足の毎日が続いた。

昼には昼で・・・。
「よしひでー!また騒いでいるぞー。行って見てこい。」両親がたまらずに声を出す。
突然始まる数百羽のメンドリたちのけたたましい鳴き声。何事かと駆けつけてみると原因はオンドリ同士の喧嘩だ。一羽のオンドリが鶏舎の中を逃げ回っている。彼らの中に序列が決まるまで、あるいはメンドリのとりあいなど、争いがたえない。巻き込まれてメンドリたちが騒ぎ出し、鶏舎から鶏舎への大騒ぎとなって伝播していく。こんなことがしょっちゅうだった。これでは玉子を産むメンドリたちの環境にも悪い。

「申し訳ない。何とかしますから」

ぼくは、近所の人たちに頭を下げてまわった。「いいよ。ニワトリのことだもの。」と、みんな笑って許してくれたが、申し訳なさでいっぱいで、ほとほとまいってしまったのだった。
全てを有精卵にするのをあきらめよう。オンドリを減らそう。そうしなければ養鶏は続けられない。そう考え、一群に一羽のオンドリの組み合わせに変えていった。ぼくのニワトリたちが産む有精卵の割合は半分ぐらいだろうか。彼らの騒ぎはずいぶん減って、ぼくや、近所の人はようやく安心できたんだ。

だけどね、ここからオンドリの悲哀に満ちた「人生」が始まったというわけさ。





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