菅野芳秀のブログ

▼家庭科の先生方の新聞に

 家庭科の先生方の大会によばれました。その際、声をかけられたのが家庭科の教科書うを作っている出版社の方でした。その方に依頼され書いたのが1200字。下の文章です。同じような文は読んだよと思われる方もおいでかと思います。ま、いいじゃないですか。ゆるゆるとまいりましょう。


菅野農園は山形県の南部にそびえる朝日連峰の麓、雪深い里にある。
水田の副産物(くず米や米ぬかなど)をニワトリたちに。ニワトリたちのフンを水田に。“土・いのち・循環のもとに”のキャッチコピーのもと、水田4ヘクタールと自然養鶏1,000羽でつくる小さな循環型農園だ。働き手は我が夫婦。そこに5年ほど前、農業の専門学校を終えた息子が帰ってきた。以来、今日まで、田んぼだ、畑だ、ニワトリだとよく働いている。
 「あんなに働いてくれて悪いなぁ、もごさいなぁ(かわいそうだなぁの意)。家のためなら、うんといいけど・・。でも、よろこべないなぁ。このまま歳とらせていいものかといつも思っているよ。」
 息子が出かけた夜に、93歳の母はため息まじりに話す。長きに渡っていろんなものを見てきた母が、農業では幸せにはなれない、離れたらいいと話す言葉には説得力がある。でも、息子は充分そのことを知った上でなお農業に就いた。いまは有機農業の体験を積みながら、農協青年部や消防団の一員、地域の一員として会合や事業に忙しい。
その息子が最近、「TPP(環太平洋経済連携協定)が国会を通ったなら農業を続けられないだろうな。」と言い出した。TPPとは関税などの貿易上の垣根をなくし、国境を越えた貿易・投資などの企業の自由な経済活動を補償しようというもの。TPPに参加すれば外国の農作物が無関税で入ってくるため、とくに日本の水田農業は大きな打撃を受け、場合によっては壊滅するかもしれないという識者は多い。
「まわりの農家が離農していけば、田んぼに入る水路の管理などできなくなり、やっぱり我が家もやめざるを得なくなるだろう。」と息子。
 農家の不安をよそにテレビでは評論家が「日本のコメは778%という高い関税率で守られていて、消費者は不当に高いコメを食わされ続けている。」と話し、外国産の輸入やむなしと繰り返している。
日本の米は高いと言うけれど、彼らはご飯いっぱいの値段を知っているのだろうか?お米にして70g。10s4000円のコメを買ったとしても28円にしかならない。2杯食べたって56円。この価格が目くじらを立てて論じるほどのものなのだろうか?それほどの高さなのだろうか。
それに政府はTPPをきっかけにして大規模化をはかり、1.8ヘクタールの水田平均耕作面積を20〜30ヘクタールに変えていくと言っているが、たとえそうなったとしてもオーストラリアの3,000、アメリカの180ヘクタールと競争などできるわけがない。その渦中からたとえ数%が生き残れたとしても省力化による化学農業への一層の傾斜をはからざるを得ず、環境や食の安全を求める声に逆行することになろう。
いま時代が求めているのは土や海、森を始めとしたいのちの資源と共にあろうとする新しい人間社会、農を基礎とした循環型社会を築くことだ。
「ばあちゃん、大丈夫だよ。」と笑う息子の人生が、はたして母親の心配とは違うものになれるだろうか。日本がTPPに参加するか否か。今年のこの一年が正念場だ。

 

2012.02.03:kakinotane
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